屋久島のスーパー

Photo: 2001. Yakushima, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35, Fuji-Film RHP III
Photo: 2001. Yakushima, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35, Fuji-Film RHP III

その時、僕たちは空腹にあえいでいた。

今までの行き当たりばったり旅行の中で、幾多のボッタクリ飲食店にやられてきた我々としては、旅先での店の選択には慎重にならざるおえない。しか し、食事の出来る場所を探して島中を走り回ったが、昼食の間帯を外し、飲食店は皆「準備中」の看板を下げている。そもそも、やってないのだ。コンビニだっ て、まともなものはなかった。

結論。スーパーだ、スーパーに行こう。食べ物を買おう。


たどり着いたのは Aコープのお総菜コーナー。夕食の買い物にはまだ早いせいか、棚は幾分スカスカ。それでもコロッケとか、焼き魚とか、いろんなものが並んでいる。ちなみ に、鮮魚コーナーの充実ぶりは流石だ。つやつやしたイカ丸一本、それが目にとまる。ちょっと買いたくなったけれど、昼から刺身でも無いか。

唐揚げと、巨大なソーセージサンド、おやつにシュークリームも買う。そして、飲み物は、縄文水。縄文水は、屋久島オリジナルの超軟水ミネラルウォー ター。東京では薬局で売られることもあり、一部のマニアには珍重されているらしい。その縄文水も、地元の生協ではお茶やジュースと一緒に、ごろごろ売られ ている。ちなみに、値段は 500ml のペットボトルが 130円(定価)。


期待して買ったわけではなかったが、縄文水の柔らかさと、ゆっくりした香りが、深く息を付かせた。島に降り注いだ雨が、そのまま湧き出したような、 優しくて新鮮な水だ。深夜、ホテルのベッドサイドに腰を下ろし、1.5リットルのペットボトルから、ごくごく飲む。嚥下するたびに、この土地の匂いが体に しみ込んでいく。結局、島に居る間は、この水ばかり飲んでいた。追加の水や、こまごましたものは、Aコープで便利に買いそろえることができた。値段も、 スーパーだからぼられる心配が無い。

明日は、この水を生んだ屋久島の山々。そして、縄文杉に会いに行く。ホテルのフロントから登山届けの用紙をもらい、昼メシの弁当も手配してもらった。弁当?予約しておくと、山に行く途中で、弁当が買えるようになっている。資本主義というのは、面白い。

突堤の縁

Photo: 2001. Fukuoka, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Fuji-Film RHP III, F.S.,
Photo: 2001. Fukuoka, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Fuji-Film RHP III, F.S.,

突堤の縁に立って、打ち付ける波を見つめている。夕日が沈んだばかりの海面には、未だ暮れきらない明るさが残る。

恐い。薄暮の中、鉛色の液体が、ザブザブと蠢いている。冷たい手、致死のものがすぐ足許に横たわっている。

小さい頃、光の漏れるエスカレーターの隙間が恐かった、ホームから眺める線路にも、死の影があった。今、それらは恐くない。でも、コンクリートにばっさりと切り取られた海は、恐い。


ここには一人で歩いてきた。思うに、突堤は一人で来た方が良い。吹く風は、やがて全てを離ればなれにしてしまうから。

突堤マニア

Photo: 突堤 2001. Yakushima, Japan, Nikon F100, AF ZOOM NIKKOR 35-105mm F3.5-4.5D,, Fuji-Film RHP III
Photo: "突堤" 2001. Yakushima, Japan, Nikon F100, AF ZOOM NIKKOR 35-105mm F3.5-4.5D,, Fuji-Film RHP III

突堤、道の終わり。

屋久島で、昼メシを食べようと立ち寄った浜。観光シーズンはとうに終わって、店はひっそりと静まり、人影は見えない。遠くで、護岸工事をする重機が唸りを上げていた。景色は霞んだ薄い光に包まれ、空は低く、空気は潮でねばねばしている。

両側は、砂浜だ。この消波ブロックが無ければ、砂はじきに失われてしまうだろう。砂浜は、この醜い腕に抱かれて、どうにか生き延びている。

この浜に、ウミガメは卵を産みに来るという。何故こんなところに、長く旅をしてまでやって来るのか。茫洋とした黒い海を眺めながら、僕は突然、心が寒いと思った。


僕が撮る写真には、これといったテーマも思想もないけれど、突堤を撮ることは多い。その有無を言わせない隔絶が、僕を引き寄せるのかもしれない。

しかし、突堤は、行き止まりではない。僕は振り返って、再び歩き始めた。


注:とっ‐てい【突堤】 陸岸から海中または河中に長く突き出た堤防状の構築物。港・湾では防波堤とし、河口では水深を維持するための防砂堤とし、海岸では人工的に砂浜を作るために用いられる。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]