南の島の星の砂 — Cocco の絵本

Photo: 伊江島伊江港 1995. Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film,
Photo: "伊江島伊江港" 1995. Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film,

Cocco の描く歌詞や絵はもちろん、凡庸とは一線を画していた。

それでも、彼女は歌を歌う人だった。彼女の歌声は、洒落ただけの空っぽの歌とは違って、言ってみれば、もっと美しくて、もっと深刻だった。しかし、彼女の歌手としての生活はいつも不安定で、自分の生み出したものに喰い尽されそうにさえ見えた。

2001年、Cocco はステージを去った。彼女は歌うことを、止めた。「絵本をつくりたい」残したメッセージはそれだけだった。復活コンサートも、なんの続報も、なにもなく、時間が過ぎた。一年半。

ある日、彼女の絵本が、本当に書店に並んでいるのを見たときには、とても驚いた。彼女が、たとえ何の手段によってでも、皆に向かって表現することは、再びあるまい、と勝手に思っていたのだ。


わずか数頁の、とても丁寧に描かれた絵本。物語は、幸せに終わっていた。そんな話を、彼女が描くようになったのだ。

カバーの裏に、思い切り笑っている Cocco の写真があった。そこは、太陽の降り注ぐ、夏の沖縄のようだった。彼女は還るべきところに還ったように見えた。


書籍データ:南の島の星の砂, Cocco, 河出書房新社, 2002, ISBN: 4309265847
参考文献:Cocco―Forget it,let it go SWITCH SPECIAL ISSUE, スイッチ・パブリッシング, 2001, ISBN: 4884180011
関連ホームページ:出版案内

バックパックを開 けると、見覚えのない「藁納豆」が 3つ入っていた

Photo: 藁納豆 2002. Tokyo, Japan, Canon Power Shot G1 2.0-2.5/7-21(34-102), JPEG.
Photo: "藁納豆" 2002. Tokyo, Japan, Canon Power Shot G1 2.0-2.5/7-21(34-102), JPEG.

ミーティングから戻ってきて、何気なく自分のバックパックを開けると、見覚えのない「藁納豆」が 3つ入っていた。

なんという嫌がらせ。


以前、「烏賊徳利(いかとっくり)」を入れられた時は、仕方なく持って帰った。お陰で、部屋中が海産物臭くなった。

今回、泣く泣く持ち帰るのも悔しいので、ひとまず手近の冷蔵庫に保管。翌日ご飯をたいてもらって、納豆飯の会を開催することにした。

藁納豆を外側から嗅いでみたところ、かなり本格的な臭いがしたので、屋内での作業は危険と判断し、一路公園へ。羊ページ管理者は、こういうことを一人でやるのが、性格的にできないので、道ずれの他 2名とともに現地へ。


ご飯をよそって、納豆をよくまぜる。もちろん、漬物も買ってあるから、それを適宜盛り付ける。僕のバックパックに藁納豆を詰めたと思われる犯人(烏賊徳利を詰めた前科がある)には、タッパウェアに詰めた「納豆弁当」に調製して別途お送りした。遠くから、不審そうに眺める昼休みのサラリーマン数人。

結論から言えば、藁納豆は意外とウマイ。というか、戸外で本格的な仕込みの藁納豆ご飯というのは、凄くウマイ。コンビニの漬物さえ、こうして食べると清々しい。嫌がらせのお土産(オイヤゲ)であったのだろうが、普通に美味しくいただいた。(足りないぐらい)

ご馳走様でした。ぜひまた、買ってきてください。

Kyocera CONTAX T2, Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/38

Photo: contax T2 2001. Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D(IF), Fuji-film.
Photo: "contax T2" 2001. Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D(IF), Fuji-film.

1984年に発売され、ハイエンドコンパクトカメラという新しいジャンルを開拓し、一部に絶大な人気を誇った CONTAX T。その後継機として、1990年に発売されたのが CONTAX T2だ。そのシンプルで美しいデザインと機能のバランスで、ハイエンドコンパクトカメラを広く普及させるきっかけとなった。小さな外見とは裏腹に、手に持つ と、カッチリした精密機器の手応えがある。

T2は、僕がカメラと出会うきっかけとなった機種だ。初めての海外旅行に、「写ルンです」を持って行くわけにもいくまいと、新宿のさくらやで買った。カメラの ことは何にも知らなかったのだが、店頭で初めて見て、その美しいフォルムとキレの良いシャッター音に惹かれたのだ。(えらく高かったから、凄く迷ったのだ けれど、その日のうちに買ってしまった)

T2は、CONTAX Tで当時の技術的限界から見送られたチタンを、ボディー素材として採用。極めてフラットなデザインに、Tシリーズのアイデンティティーと言える「Tカット」が施している。ボディーの金属には十分な剛性と厚みがあり、持っていて頼もしい。(戦場で、弾丸からカメラマンを守った逸話もある程だ)滑らかな 多結晶サファイア製のシャッターボタンは、購入してもう 10年近くになろうとする現在でも、その滑らかさを失っていない。

直感的なダイアルオペレーションのMF機構と露出補正、小さなレンズに内蔵した絞りリングなど、コンパクトカメラの操作系としては完成の域に達している。レリーズタイムラグも少なく、シャッ ター音はGシリーズに近い歯切れの良い金属的な音。(決して、大きな音ということではない)ただし、オートフォーカスには癖があり(全然ダメだという人もいる)、 ファインダーの表示と実際にフォーカスされる側遠ポイントにずれがある。このため、使いこなすにはちょっとしたコツがいるし、ピンぼけしてしまうケースも 多い。道具としての性能ならT3が上、ただ、存在感ではT2に軍配が上がる。


Photo: Venice 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/38, Agfa
Photo: "Venice" 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/38, Agfa

T2が装備する、Carl Zeissの小さな Sonnar T 2.8/38は、時々、驚くほどキレイな光を捕まえてくる。半面、「あたりだ」という絵をとるのが、なかなか難しいレンズでもある。T2の後継として発売されたT3 の Sonnar T 2.8/35はよりアベレージで優秀なレンズだが、当たり外れの激しい T2のSonnar T* 2.8/38の方を好む、という人は今でも多い。周辺光量落ちがやや強いものの、SLRの妥協品としてのコンパクトではなく、あえてTで撮りたい、と思わせるレンズ。このT2のSonnarでしか撮れない絵というのが、確かにある。

T2の一番の特徴は、一見しては全く目立たないこと。小さくて見た目が控えめなので、撮られる人が身構えないし、割とシャッターを切りにくい状況でもサッと出して撮ることができる。外国の地下鉄、立ち入り禁止の鉄条網の内側等、いかにも危なげな状況で威力を発揮してきた。シンプルで直感的なオペレーションと、 金属ボディーの信頼感、そして特徴あるSonnar。現代でも十分通用する、手に馴染む道具としての魅力を持ったカメラだ。