僧侶が並んでいる。
露店の台の上に、それぞれに微妙にポーズも顔つきも違う、精巧な僧侶フィギュアが並べられている。一見してガラクタのラジカセや、ニセモノの骨董品が並ぶ露店街に、突然、桁違いにハイグレードな品々が。
ディアドロップの真っ黒な大門サングラスをかけた兄ちゃんが、店番をしている。
通常、僕は旅先でお土産の類をできるだけ買わないが、これはなんとなく買って帰らなくてはいけない気がしてしまっていた。でも、待て。どこに飾るんだ。もっと言えば、こんなにあげづらい、捨てづらい土産は無いのではないか。
タイに於ける、お坊さんのアイドルっぷりに、僕はかなり驚いていた。
朝、テレビをつけると高僧の説教をひたすら流す、「お坊さんチャンネル」に行き当たる。それも 2チャンネルある。きっと、自分の宗派とか、好みの路線というものがあるのだろう。
タクシーのバックミラーには、お坊さんブロマイドがかかっている。運転手に「それは、敬愛する僧なのか?」と訊くと、そうだと言う。バスの側面には、僧侶の写真が極彩色でプリントされている。
「ワット・ポーは今日は休みだよ!こっちに付いてきなさい」
という、あまりにもあからさまな客引きのオッサンを振り切って、王宮から数ブロック離れたワットポーに向かって歩く。タイにも客引きは確かに居る。でも、しつこくないというか、諦めが良いというか、「いらない」「乗らない」「興味ない」というと、たいてい意外とあっさり「あ、っそ」という感じで引き下がる。中華圏では考えられない引き際の良さだ。
空港からホテルまで来て、降り際にあと TBH1,000よこせ、という運転手に「なんだその料金は、聞いてないぞ」と、いささかの長期戦を覚悟で挑んでみたが、「ちぇっ、いいよいいよ」という感じですぐに引き下がってしまう。
受けて立つ気満々で言ってみたこちらは、拍子抜けしてしまう。根っこの所で、抑えが効いているというか、殆ど例外なくタクシーに飾り付けられている僧侶アイテムは伊達では無いのだ。
引き続き、ワット・ポーに向かって歩いている。露店が何百メートルにもわたって、続いている。遺跡からの出土品、と言いたいのだろう、小さい仏像を刻んだ石とも、汚れたテラコッタともつかないものをやたらに沢山並べている。とても手を出す気にはならないが、これを買っていく人も、やっぱり居るのだろうか?
そして、突然目に飛び込んできたのだ。
あまりにも、リアルな僧侶フィギュアが。目を疑う程の作り込みと、質感十分な仕上げ。これが人形である事を伝えたいために、わざわざ露店のオヤジを入れて撮影してしまった。
ちょっと買おうかな、と思った。値段が、実はそんなに高くない。でも、やめた。後日不要になった時に、どうやって処分すれば良いのか、やっぱり分からなかったからだ。