サーファーが連れて行くBBQと鉈料理

Photo: “Axe guardian and green pepper.”

Photo: “Axe guardian and green pepper.” 2023. Ibaraki, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

もちろん、自分の包丁を持ってくるべきだったのだ。砂浜の砂粒で刃こぼれでもしたら嫌だな、という気分が無かったわけではないが、それにしても、持ってくるべきだった。包丁とは言っても、常用しているのはペティーナイフなのだから、そんなにかさばらないのだし。

ならず者氏が、記憶をたぐりながらイカツいRVの鼻先を突っ込んだ隘路の先には、茫洋とした砂浜が広がっていた。遊泳禁止の看板すらそもそも無い、荒い外房の波が打ち寄せる砂浜が、果てしなく続く。我々は焚き火を起こし、ノンアルコールビールの缶を開け、文字通り他に誰一人居ない、大陽だけが照りつける流木だらけの砂浜を満喫していた。


焼きそばを作る段になって、ピーマンを切りたかった。あり合わせのものを放り込むと言っても、野菜を手でちぎるというわけにはいかない。料を理するのだ。ならず者氏は、包丁は持っていくと言っていたよね、包丁あります?

「包丁?ああ、そちらの、”鉈”で。」

あぁ、やはりそういう事か。薪割りまで出来る、新規導入アイテムの鉈の切れ味は、なんなら包丁よりも数段良いのだから、大は小を兼ねる、問題無いじゃない、という発想が目に見える。かなり前に自炊することを放棄した人間が、考えそうな事だ。しかし、言っておくが鉈で料理なんかできない。包丁は引いて切る道具であって、鉈のように叩き切るのではない。

持ってみると、コンパクトな鉈としてはちょうど良いのだろうが、包丁としてはあまりに重すぎる。ひんやりとした鋼が、グリップまで通っていて、これはなかなかタフに使えそうだ。薪をクラフトするのも、指の肉を削ぐのも、易々とこなすことが出来るに違いない。


ならず者氏と、茶碗夫婦夫の期待を背中に受けて、焼きそばは完成した。もちろん、指をそぎ落とさないように、最新の注意を払いつつだ。味付けとしては、この潮風の中なので、かなりしっかりニンニクと塩の味を付けてみた。ならず者氏が、焼きそばは塩一択だ、と有無を言わさず主張したのは正しかったように思える。潮風と、若干の砂も含めて、またとない味だった。(帰宅してから、さらに一度塩焼きそばを作るぐらいには、感銘を受けた)

ストレスフルな日常から来るすさんだ気分には、海岸でのBBQがなによりだというのは、確かにならず者氏の言うとおりだった。20有余年の時を経て、幸いにも我々3人はまだつるんでいるのであって、そういう関係が、実はめったになく有り難いものだ、という事に最近、気がつき始めた。

思いつきの旅(ただし、御安全に)

Photo: “Shinjyuku 2021.”

Photo: “Shinjyuku 2021.” 2021. Tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

緊急事態宣言が再発令されようとする、まさにそのタイミングで、ならず者氏から小旅行の提案がある。相変わらず、ノールールだ。彼の思いつきで、旅のようなものが決行されるのは今も昔も変わらない。

しかし、安全性に最大限の配慮を行う彼のこと、旅の内容は僕の家の前から、もう一人の家の近所まで、ドラクエウォークドライブをする、なお、会食等はせずさっさと解散する、というものだった。さすが、ISOなんちゃか、とかの世界に生きているだけの事はある。


文字通り家の真ん前まで迎えに来てもらって、ドラクエウォークしながら(彼はウォークモード)、ゲーム会社勤務氏の家までドライブ。高速は使わずに、なんやかんやで片道1.5時間ぐらいかかる。甲州街道から、久しぶりに見た新宿駅の光。バスタ新宿のある景色に慣れる前に、まったく電車に乗らなくなった。

車の数が減り、少し山のような地形が混じり始める頃に目的地に到着。ここは、そういえば自分の実家のあたりにむしろ近い。社外に出ると、大気はずいぶんと寒く、セブンの駐車場はえらく広かった。待ち合わせの友人を探す。あの駐車場の隅に座ってる怪しい人物、あれじゃね?(違った)


合流して、たわいの無い話をする。気がつけば、3人が物理的に顔を合わせるのは2年近くぶりだ。ゲーム氏の奥さんもちょっと顔を出す。こちらは10年ぶりぐらい、全然変わらない。酒も飲まないし、食事もしない。ただ、距離をとって静かに話しただけ。途中で駐車場の冷えを感じて、午後の紅茶ホットの加温中を買う。それ程には熱くなかった。

日清の激辛の焼きそばと、謎のエナジードリンク (version 1.0.0と書いてあった)をお土産にもらってきた。

中国からの観光客が絶えて

Photo: “Silent river and cherry petals.”

Photo: “Silent river and cherry petals.” 2020. Tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

中国からの観光客が絶えて、静まりかえった築地。その向こう側に広がっているのは、豊洲の貯木場跡らしい。

一時のことかと、この時は思っていた。しかし、それから数カ月に渡って、この東京の不思議な姿を、眺め続ける事になった。


見るものが居ない桜が散って、海へと運ばれていった。