払暁の光

Photo: 手帳 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

Photo: “手帳” 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

払暁の光から、空は段々と朝の気配を帯びて、やがて日常の色を成していく。朝 4時に起きるのはつらかったが、こんな景色が見られるならそれも悪くない。

新千歳が大雪のため、引き返す可能性がある旨、機内放送がある。さっき、現地に先行している友人に電話したら、雪はそうでもないらしい。保険みたいなものか。

そうそう、同じ便には T シャツ姿のガイジンのグループが乗り合わせた。何故奴らは世界中のあらゆる場所で、T シャツなのか、おおいなる謎。この便は、北海道行きだよ?


とかいうようなことを、”ほぼ日手帳”に 書きながら、過ごす。旅行に手帳は便利だ。考えてみれば、手帳を持って旅行するのは、学生の時にロスアンジェルスに行って以来。会社に入ってからは、いつも、PDA とか PC を持っていた。電子機器の扱いにうるさくなった昨今、飛行機の中でも気にしないで書くことができるのが良い。それに、なんか、「書いてる」って感じがする。

スーツケースと崎陽軒のシウマイ

Photo: 崎陽軒のシウマイ 2004. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

Photo: "崎陽軒のシウマイ" 2004. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

午前 2時。大阪市内のとあるホテルの一室。目の前には、30個入りの崎陽軒のシウマイが手つかずの状態で置かれている。腹はすでに一杯だ。


大阪へのお土産は、崎陽軒のシウマイと決まっている。毎回、同じ人に、同じものを、あげるのも芸がないので、今回はいつもの倍の30個入りだ。相手 は、今日はメタルのスーツケースを持っている。シウマイを入れるのに、もっとも向かない鞄があるとすれば、それはメタルのスーツケースに違いない。いい感 じだ。スーツケースにシウマイ、カッコワルイ。

打ち合わせも終わって、ちょっと遅い晩飯を食べて、ちょっと(かなり)風変わりなバーに行ってみたりする。マンションの最上階にある、バー。普通に チャイムを鳴らして入るのだ。淀川の向こうに大阪市街を眺めつつ、思いっきり、ベタベタにセレブな感じが演出されるのは、やはり関西だからか。(値段は驚 くほど安い)


夜半、大阪組と東京組は分かれて、僕たちはいい気分で今日の宿に向かう。やっぱり、夜食だろ、というところで「レゲエ飯」をつくるべくコンビニに入って思い出した。
「シウマイ!」
「あー、鞄に入れっぱなし!」

喰うのかよ。(喰ったが)


注:付け合わせはパスタになっております。

楽園を見にいく

Photo: イチジクとメロンの前菜 2004. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105

Photo: "イチジクとメロンの前菜" 2004. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105

今回の旅の目的の一つに、「楽園を見にいく」というものがあった。知り合いの両親が、阿蘇の山裾でレストランを開いている。それは、テレビ番組でも 取りあげられた。東京での生活にピリオドをうって、阿蘇に移り住んで、レストラン経営。ある種、画に描いたような話だ。それって、実際どうなんだろう。

カーナビに店名を入力すると、ちゃんと登録されていた(!)のだが、アホなナビは山側から回り込むという非常に難易度の高いコースを設定し、藪を乗り越え、岩陰を抜けて、なんとかたどり着いた。(下からいけば、普通の舗装道路から易々と行けたのだが)


店は手作りで一から建てたという、南仏風の白い建物。庭に向かって大きなテラスがつくられていて、そこからはすぐ近くに阿蘇の山が望める。僕たちは そのテラスに作られたテーブルに通された。山裾の風が吹抜け、白と青のクロスに、籐の椅子が気持ちいい。料理は奥さんと、2人の女性がつくる。メニューを いろいろ見て、せっかくなのでコースを頼んでみる。(正直腹ぺこだった)

いただいたワインを飲みながら、山を眺めていると、シャイな感じのご主人が料理を運んできてくれた。イチジクとメロンを盛りつけたフルーツ仕立ての前菜が目に清々しい。しっかりしたイチジクの実や大粒のラズベリーに、自然のものを食べている喜びがある。

暫くして、不意に蜩の声が止むと、朗々とした雷鳴とともに激しい夕立が訪れる。あっという間に気温が下がり、心地よい。阿蘇の山が雨に霞む。この季節、夕方にスコールのような雨が降るという。


ラタトゥユのごろごろした野菜。全粒粉の香ばしいパンと、よく煮込んだシチュー。バジルの濃い香りに酔うパスタ。お世辞でもなんでも無く、美味い。 メニューのバリエーションは多くない、その分、料理はしっかり考えられている。口に含んだ料理の香りが一段も二段も違う、こんなに強い素材は、土と太陽の ある所でなければ食べられないのだと知る。そう言えば、このテーブルに座ってから、ハーブの強い香りがずっとしている。庭に植えられたタイムの葉だ。

「これは戦いみたいなもんです」

阿蘇の気候で庭を造り、店をきりもりする。日々は、生い茂る植物との戦いだと言う。日本の気候の中で、自分たちの理想とする世界を手探りでつくろうとする難しさ。

それにしても、最初これって本当に儲かるのか?という気がしたけど、お客さんがちゃんと来る。僕たちが食事をしている間にも、ジャガーのセダンに 乗った品のいいカップルが、お茶を飲んで帰っていった。楽園は、そこにあるものではなくて、つくるものだと知る。ここには、楽園を作ろうとする想いがあっ た。