旅行記の記事一覧(全 433件)

用賀、何のイメージも無かった街

Photo: “Octopus! Octopus! Octopus!”
Photo: “Octopus! Octopus! Octopus!” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

用賀、何のイメージも無い街。駅前のスーパーは、とにかく今日は蒸し蛸推しだ。小綺麗というのがぴったりな街並みの、人工感、富裕感、そんなものに軽く圧倒されながら、LEXUS用賀の横を通って砧公園に向かった。GPTが提示した目的地は、公園の一角にある世田谷美術館。今日は写真展が開かれている。

写真家 野町和嘉の名前を僕は知らなかったが、多分見覚えのある写真はあった。NHKのドキュメンタリーで見たのかもしれない。エチオピアのキリスト教会をテーマにしたパートの、異世界感、古代感。ミュージアムショップで、光沢印刷が美しい80年代当時のエチオピアがテーマの絶版本を買うことができた。写真家の家に在庫されていたのだという。もう、この先どんどん限られて行くであろう、紙の写真集を買う。(集めている)

80年代に世界を巡ることができたのは、とんでもない幸運。今は、それはただのYouTuberレベルの話になってしまう。今時、ドキュメンタリーなんてものは流行らない。それがとうに、フィクションであることは分かってしまっている。映画の論法を使えばギリギリ存在できるか?というぐらいの所ではないか。


世界をめぐって写真を撮る、そういえば自分はもともとそんなことがしたかったんだな、というのを思い出した。だが、今の自分に何ができるだろうか。家を空けて長期に旅にでる。世界の写真を撮る?2025年に?それはいささか、需要も供給もなさそうだ。あるいは旅のエッセイ?そんなものを最近自分は読んだだろうか。

写真家が、自分の撮影してきた時代は、世界がフラットになる前の最後の時代だと書いていたことは、全くその通りなのだろう。今から、何の意味を背負って世界に出て行くことができるのか、その必要があるのか。もっとも、必要なんてものはどうでもいいのだと僕は知っている。自分が十分にやりたいことをやっているのか、それだけの話。

奥多摩

Photo: “Swallows."
Photo: “Swallows.” 2025. Tokyo, Japan, Google Pixel9.

GPTの指示に従って奥多摩の駅に降りたときから、田舎の駅にはあるまじき緊迫感というか、観光地、いや深夜のドンキのような緊迫感を感じたのだ。

そのカンは当たっていて、奥多摩の清流は、ガラの悪いBBQ客、母国のノリで爆音をかける東南アジア系、遊泳禁止の巨岩から飛び込む白人、もちろん日本人の「輩」もたくさん居たけれど、そこと一線を画するインバウンドのマナーは衝撃だった。

簡易トイレが溢れたような、嫌な臭いの水で泥濘む渓谷沿いの径を渡った時点で、もう限界を感じた。嫌なにおい、嫌な空気、ここには一刻も居たくない。


インバウンドが入って来れない近隣の神社で巻き返しを図る。GPTにプランBを求めた。混雑状況は、ほかの駅ならまだましとの事。であれば、大多摩ウォーキングトレイルというものに行ってみよう。本来、JR青梅線・古里駅から奥多摩駅までのコースのようだが、鳩ノ巣まで電車で移動し古里駅に向かってトレイルを逆をたどる。

「平坦な道で、気持ちの良い川沿いのトレッキングコース」だとGPTは言っていた。後から考えれば、登山に慣れた方々のBlogか何かをモデルに取り込んでいるのだろう。ド素人の僕からすると、「登山」みたいな道である。ツキノワグマ注意の看板が出る林道を上り下りし、木の根を分ける。キーワードだけで進んできたので、トレイルの全体像は分からない。道端に時折掲げられた道標だけがヒントになっている。

道中、道を間違えたのでは?という疑念が最高潮に達するぐらいで、「大多摩ウォーキングトレイル」の次の道標が現れる、絶妙なゲームバランス。ツキノワグマが出ます、と書いてある林道では休憩する気になれなかったが、途中に設けられた無料の休憩場所に救われる。

朝、家の近くのセブンで買ってきた紀州梅のおにぎりが、これ以上なく美味く感じた。デザートのココアクッキーを用意しておいたのも、自分を褒めたい。この暑さでも、クッキーはびくともしない。塩分と糖分。食べ終わって道を下っていると、さっきより力が湧いてくるのが分かる。モノを食べるというのは凄いこと。


鳩ノ巣駅から古里駅までは、地図の記載で3.4km、林道なので歩く感覚はもっと遠い。何組かのトレッキング客とすれ違い(僕が逆行しているのだ)、川を渡り、市街地に出る。青梅線の線路が、道を併走するようになると、古里駅にたどり着いた。

スッカスカの時刻表によれば、30分の待ち。無人駅、トイレもないので(実は反対側にあった)誰もいないホームで汗で重くなったTシャツを着替えた。レールの間には雑草が背高く生える。若い燕が4羽ばかり架線の間を行き来している。ホームの両端には色と水分を失った、背の高い雑草が生え、遠くの山並みの緑は深い。

Photo: “View from the High Deck, Musashino"
Photo: “View from the High Deck, Musashino” 2025. Tokyo, Japan, Google Pixel9.

人の気配がして、甲殻機動隊のTシャツを着た50歳がらみの男に話しかけられる。「いや、もう5分も待てば電車は来ますよ」と答える。暑くてかなわない。32度とGarminは表示しているが、湿度が高く体感気温はもっと高い。

青梅からはグリーン車に乗った。初見では分からないモバイルSUICAを使ってグリーン券を買う方法は、GTPに聞いた。ハイデッキの2階からは、見慣れた中央線がずいぶん違って見える。1時間以上乗って千円なのだから、案外お買い得かもしれない。車内販売のお茶は出ないけれど車窓が移り変わって飽きないし、とても空いている。

沿線に住む古い知り合いに会いに行ってもいいなと思ったりした。電車は国分寺を過ぎた。

船橋、鯵フライ・リベンジ

Photo: “Mix fried fish set meal (Aji fry teishoku).” 2025.
Photo: “Mix fried fish set meal (Aji fry teishoku).” 2025. Chiba, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

乗り換えで電車の向きを間違い、1駅分反対方面の駅で降りた。土地勘が全くないところに連れて行かれるのは面白い。せっかくなので、間違えた駅で昼にしようと思う。見知らぬ街を空腹で彷徨うのは絶対に避けたい。惨めな気分になるし、ミスをする、見過ごす。今日も懲りずにGPTにお勧めを聞いてみる。また「食堂」を出してくる。しかし、今度は市場の中にあるらしい。市場に至る道を駅から歩く。巨大な市営団地が解体され、更地にされつつあり、防音シートの壁で作られた回廊を歩いて行く。昭和が更地になって、新しい時代が建設されていく。

Photo: “Under construction.”
Photo: “Under construction.” 2025. Chiba, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

日曜日で市場は閑散としていて、その「食堂」だけが店を開けていた。表面が擦れて色落ちした合板のカウンターに、丸椅子、古いが清潔な厨房。今日も、フライにしてみる。さしずめ、昨日のリベンジ。よく研かれた冷蔵庫から大将が出してきたのは、衣を付ける前の下ごしらえされた鯵、鰤、烏賊、帆立、そして牡蠣。これなら、間違いがない。そして間違いないフライの定食が出てきた。味噌汁は潮汁のようで、魚介の姿は見えないが出汁を濃く感じる。ただ、フライにべたっと添えられたできあいのタルタルは、僕が嫌いな、独特の市販品の嫌な味がしてだめだった。市販のドレッシングにも共通する、嫌な味、いつも不思議に思うのだが油なのだろうか。だから今日のフライ達は、ソースで美味しく食べた。


会計を済ませると、店主は「ありがとうございます、お気を付けて」と言った。引き戸を開けて、店を出るときも、もう一度「お気を付けて!」と声をかけられた。

防音シートの回廊を先ほどとは逆に歩きながら、市場の広い駐車エリアにまばらに並んだトラックを思い出した。今日は休日で、客は観光客が大半だった。しかし、あの食堂を、店を普段利用するのは、市場に荷を運んできたドライバー達なのだ。そこで二代にわたって店を守ってきた。だから、「お気を付けて」が客の背中にかける日々の挨拶になったのだ。