旅&食の記事一覧(全 233件)

牛で〆る沖縄の夜

Photo: "BBQ set meal."
Photo: “BBQ set meal.” 2017. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter

沖縄の人はステーキで夜を〆る。確かに、深夜のステーキハウスは繁盛している。でも、ちょっとそういうのは厳しいかな。例えばジャッキーステーキハウスには、粉っぽいスープも含めて独特の美味しさがあるけれど、夜中にギラギラした照明のダイナーでステーキを食べる気分にはならない。


僕には牛屋の焼肉(並)ぐらいが、丁度良く感じる。これに、ご飯と、スープと、キムチのセットを付ける。結構脂分を感じる焼肉はあらかじめカットされていて、ニンニク風味の浅漬キュウリの付け合わせが妙にうまく感じる。お酒は二人で瓶ビール1本を分け合って、まあ、丁度良いくらい。

奥のテーブルでは、地元の仕事帰りからの、飲み屋帰りの紳士達が、気怠く締めの肉を食べている。うまい、なんて今さら言わないで、食べている。こういうぐらいのテンションが沖縄で言うところの、肉で〆るというものなのかもしれない。正直、この店はちょっと高く感じる値付けで、酔っていなければ食べには来ないだろう。

初めて来たとき、僕は相当に酔っていたように思う。今はもう、そんなには飲まない。

沖縄のよそ行き家庭料理

Photo: "Midnight in Naha."
Photo: “Midnight in Naha.” 2017. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter

沖縄料理の見た目というのは、だいたいどんな店でも旅館でも同じようなもので、食べてみて初めて違いが分かるように思う。見た目では旨さの判断が付かないのだ。

その店の料理もまさにそれで、今にも崩れそうな(良い意味で)煤けた内装にしては、そして沖縄にしてはちょっと高いなというメニューに躊躇しながら2、3品頼んで出てきた皿は、本当にどうという事は無い沖縄料理。

ただ、食べてみるとたちどころにうまい。味付けが変わっているとか、材料が目新しいとかそういう事では無い。突き出しのミミガーの和え物が既に絶妙なバランスでうまいし、ドゥルワカシーの粘り気は想像より一段深くてうまいし、ナーベラーしか入っていない炒め物の味噌味もチャンプルーのリファレンスのようにうまい。

そう、この店の沖縄料理はリファレンスのように美味しい。メニューに有るのは絵に描いたような代表的沖縄料理だが、それをRFC通りに作るとこうなりますとでも言うか、「作例」のような完成度。


相席になっている隣のメンズ2名は、さっきからうまいうまいと大騒ぎしながら料理を食っている。美味しく料理を食べる姿は、本来気持ちの良いものだが、なんだか彦麻呂でも見ているかのような、オーバーリアクションの意味がよく分からない。

で、いかにこの店でも、君らが食べているそのカラフルな魚のお刺身って、そんなに美味しいのか?沖縄の刺身に疑念を抱いてしまうのは、前日に別の店のマスターに言われた一言が原因だのだが、それはまた別の話。

その店は、なかなか入りにくい

Photo: “Set meal of grilled yellowtail.”
Photo: “Set meal of grilled yellowtail.” 2017. Tokyo, Apple iPhone 6S.

その店は、一見するとなかなか入りにくい。実は、その近くを歩きながら、何年も気が付かなかった。住居と一緒になった、割烹のような店構え。昼時、店の前に掲げられる品書きは、少し値が張る。

「いらっしゃいませ。」

和食の世界では名の知れた名店だが、二代目の店主の物腰は柔らかく、少しも威張ったところがない。

「今日は、焼き魚は何ですか?」
と聞くと、
「竹が鮭、松が太刀魚です」
と答えた。ちょっと迷うが、太刀魚にした。

焼き台にはまだ炭は入っていない。ガス台でカンカンに暖められた炭が置かれて、大ぶりの太刀魚が串に打たれて焼き始められた。12時をちょっと回った頃だが、連休の谷間で今日は人が少ない。先客は3人1組だけ。皆、名物のどんぶりを食べているようだ。


ほうじ茶を啜りながら、たっぷり10分ほど待つと、魚が串から外され熱い飯がよそられる。出てくる定食は、見た目が凄く豪華とか、そういう事は無い。供される小鉢も、汁も、もう渋すぎてかの小説家の「昔の味」に出てきても不思議では無い。

小鉢のたけのこの煮物、えぐみの少し残った感じ。蕪の漬物の、少しひねた感じ。汁は粗から出た出汁がひどくうまい。太刀魚に添えられた蕗味噌は、普通に考えたら塩辛そうだが、ぎりぎりで塩が収まっている。

焼きあがった太刀魚は、鱧のようにふっくらとしている。腹身と背中の味の違いを噛みしめる。そうして、艶っとしたご飯を頬張る。


普段はそんなことは思わないが、この店ばかりは、美味しさが分からないなら食べなくていいよ、と思ってしまう。あるいは、そういう美味しさが分からなかったから、何年も自分の視界に入らなかったのかもしれない。