昼飯の餃子定食は不味かった。ご飯が不味いって、久々に感じた。不味いのに腹だけ一杯になった。そんなやるせない気分を引きずったまま、晩飯を探そうとしている。
最近来ていなかった街に降りた。どこに向かって歩くか、この近所に立ち飲みがあったか、いや休みだ。ろくでもないワインバーがあったか、いや、面倒な客が多くてうんざりだ。
そうだ、おかかの美味しい立ち食い蕎麦屋があったっけ。ちょっと遠くて、10分ぐらいかかる。首都高の下を歩いて行く。初冬の雨上りで、湿度が高く、気温が低く、風が強い。とても不愉快な道。
俺は本当に、こんな道を歩いて蕎麦を食べに行きたいのか。いや、別に喰いたくない。唐突に、そうだ、神社に行こうと思った。このあたりにある、幸運の神社。
神社は小さいのだけれど、とても温かい雰囲気のある場所だった。正月には行列が出来るが、平日の夜、狭い境内には誰も居ない。柏手も小さく、静かにお祈りをして、直ぐに出た。ビジネスマンが入れ替わりに入ってきて、背中の向こうで鈴を鳴らしているのが聞こえた。
不思議と気分が軽くなって、そういえば腹が減っていることを思い出した。当てもなく飲み屋街の方に歩いていくと、牛カツの店にいきあたる。昼は来たことがあるが、一度夜に行ってみようと思って居た店。
客のまばらな店内には、昼よりもゆったりした空気が流れている。昼は大忙しで、きりっとした空気が流れているけれど、夜はちょっと違う。上がり際の店員が、自分用に持ち帰りのメンチカツなんかを揚げてもらったりしている。
少し迷って、牛カツとビールを頼んだ。潔く瓶ビールというのがいい。揚げ物をつまみに日本酒をやっている年配のサラリーマン、黙々とカツとご飯を口に運んでいるサラリーマン。交わす言葉も少なく、慣れた感じでメンチカツにかじりつく二人組のサラリーマン。見事に、サラリーマン。
牛カツは目の前でパン粉を付けられ、ラードでさっと揚げられる。キャベツとマカロニサラダを添えて、あっという間にやってきた。
ご飯が美味しい。少し柔らかい炊きあがりが、洋食屋さんのご飯だ。カツは少し厚めで、いつも思うが、火の通し方が凄い。前歯で噛み切れる柔らかさ。きちんとした練り辛子と中濃ソースでたべると、しみじみと美味しい。手作りのマカロニサラダもビールによく合う。
付け合わせのキャベツが少し固いな、と思ったら、厨房では「今度のキャベツが固いのよねぇ」なんていう話をしているよ。カウンターの短辺から、厨房の様子がよく見える。明日の仕込みなのか、きちんとした固まりのバターを切り分けている。
僕の後に入って来たお客で、今日はカンバン。彼が頼んだポークソテーは初めて見たが、見事な厚さのロースで、まさに「そういうのも有るのか」と言いたくなるようなものだった。なにせ牛カツ屋、なかなか他のメニューは頼まないのだが、次は、ポークソテーを食べてみようと思う。