スプートニクの恋人

少し長めの「今日の一言」を書き始めたら、なかなか出来上がらず、更新ができなかった。(まだ出来上がらないので、週末あたりには更新できると思う)


ホームページに感想を送ってくれた人のメールで、村上春樹の新作が出ていることを知った。

買おうか、買うまいか少し迷ったが、結局買った。

新作、「スプートニクの恋人」には、いつもの主人公「僕」がいた。「僕」は今度は学校の先生をやっているが、やはりプールで泳ぎ、料理をつくるのがうまい。

僕が初めて村上春樹の描く「僕」に出会ったのは、5年前。僕は、大学でくそ面白くない民族学の講義を聞き流しながら、「風の歌を聴け」を読んでいた。


ラッシュアワーの余韻が残る電車に乗って、いつもの曲を聴きながら、村上春樹を読む。

学生の時から変わったのは、電車の行き先ぐらいのものだ。

何も、変わらない。

羊をめぐる冒険

ファーストフードで、食べ残しのポテトと、包み紙と、紙コップ、ストロー、使い終わったナプキン、を捨てた。

ファーストフードで、食べ残しとゴミを、捨てる。

実に単純なことだ。


村上春樹の、「羊をめぐる冒険」の話をしていた。

小説の書き出しは、こんな風だ。

新聞で偶然彼女の死を知った友人が電話で僕にそれを教えてくれた。(注1)

余計な物は、いっさい捨てた文章。


僕は、捨てるのが極端に下手だ。

カラスには、光るものを見境無く巣にため込む習性があるそうだ。

僕は、いろんなものを抱え、捨てられない。

抱えているものが、自分から何かを奪い続けるとしても、だ。

羊をめぐる冒険(上) page 9 line 1 , 1985, 村上春樹, 講談社文庫.

オムライスを食べる

「昼飯に、オムライスを食べるっていうのは、いいことだよ」
と友人は言った。
その時、僕はジャックダニエルズの水割りを飲みながら、目の前の大振りなオムライスをつき崩していた。
「そうだな、言われてみれば、いいな」
と答えた。

真剣に考えたことはなかったが、昼飯にオムライスを食べる、というのは、確かにどう考えても好ましいことのように思える。


「オムライスを食いに行こう」
僕の誘いに、友人は別に反対しなかった。

一杯飲んだ後のオムライスが美味しいというのは、意外な発見だった。僕と友人は、二人でオムライスを食っていた。

この洋食屋は、僕が昼飯にオムライスを食べに、よく来る店だ。新宿のとある交差点の一角に建っている。深夜ということもあって、店内はガラガラだった。外の景色は、見慣れた昼間のオフィス街とは印象が違って、まるで別の街のようだった。

街から雑踏は消えていた。時折、車がやや速めのスピードで交差点を走り抜けていった。


「おまえの店にも、オムライスは絶対置けよ」
将来はバーを開きたい、学生の頃からそんなことを言っている友人に、僕は言った。
「ああ」
当然、といった風に、彼は答えた。

「バーで、オムライスを食うのは、カッコイイからな」
新宿の某所で出される、このオムライスは確かにうまい。

分厚い卵の衣が、とろっと半熟になって、ご飯全体を覆っている。オムライスには、何故か熱々の味噌汁がついていて、そいつをすすりながら、とろとろの卵衣とケチャップご飯を混ぜて食べるのである。


すっかり食べてしまって、酒も飲みほし、店を出ることにした。この店の会計は少し怪しい。レジがあるくせに、ちゃんと使っている気配が無い。計算は、いつもレジの傍らに置いた電卓でやっている。

会計を払って外に出た。交差点の反対側にある交番では、誰かが尋問されているようだった。新宿の夜の空気は、ちょうど良い涼しさで、気分が良かった。すり切れ気味のレコードから流れる、時代錯誤なワルツが、今出てきたばかりの店内からもれていた。
「この店気にいった」
友人が言った。