パークハイアット、その他の書き方

つまり、「事実」といっても、その伝え方には、いくらでも幅を与えることができる。前回の[今日の一言]と、同じ日の出来事を、全く違う視点で書いてみると、こうなる。


オフィスを出ると、もう午後の11時半近く。蒸し暑く、だるい疲労感がただよう、いけてない深夜。一人が、ポツリと言った。

「あのさぁ、ハイアットって、いいよ。」

なるほど。そういえば、あんまり近くにあるので、今まで行ったことが無かった。「じゃ、行っとく?一杯飲んどく?」ということで、行ってみた。高いと言っても、カクテル1杯で2,000円はないだろう、という読みのモトに(当たっていた)、物見遊山で一路ハイアットへ。

入り口がよく分からなかったが、とにかくベルボーイが立っているドアにたどり着いた。見るからに、キョロキョロした3名だったが、珍しく全員スーツを着ていたので、特に連行されたりはせずに、フロントを突破。

いよいよ、内部へ。

・廊下にて
「ここって、大声出したらやばいよね。そういう雰囲気じゃないもんな。へへへ。」
「ホントに、こっちでいいのかよ。なんか、景色の高級感が増大してきてるよ。」
「ねぇ、俺、トイレ行きたいんだけど、、。」

・トイレにて
「うおー、タオルが別々にかごに入ってるよ。」
「顔洗おうぜ、顔。」
「うーん、素晴らしい肌触り。これはいいわ。」

・テーブルにて
「うーん、なんかこの酒、パイナップルの味がするなー。」(知らずに頼むな)
「オレ、コレダメだわ。シロップみたいな味だ。あの、パフェとかに付いてくる、真っ赤のサクランボが好きなら、美味しく飲めそうなんだけど。」(その割に全部飲んだ)
「、、。」(雰囲気に陶酔中)

・締め
「やっぱ、割り勘はまずいよなぁ。」
「ゴールドカードないの、ゴールドカード。会社のやつ使おう。一応、金色だし。」
「週に一度ぐらいは来て、ビビらないように体を慣らそうよ。やっぱ、いきなりは、敷居高いよ。」


大盛り上がり。別に、金持ちになりたいとは思わないけれど、こういう所に平気でこられるお財布は欲しい。切実に、そう思ったのだった。

注:センチュリーハイアットではない。

パークハイアット

しっとりした絨毯の上を、歩いていく。7色の花を盛りつけた、中国風の花器。飴色に輝く、マホガニーの本棚。研かれた金属の光沢を吸い込む、深緑の石壁。にぶい静寂。

再び、エレベーターに乗る。地上数十階から見下ろす、街。梅雨の雨に洗い流され、澄みきった大気。ひときは眩い、街の灯り。聞こえてくるのは、賑やかなオールデイズの歌声と、浮かれたピアノのリズム。

ピシッとしたウェイターが運んでくる、冷たいカクテル。口をつけてから、アプリコットがキライだったことを思い出した。ざわめき、タバコの薄い煙。向かいに置かれた、オン・ザ・ロックスの氷が、ゆらりと動く。

気遅れさえしないなら、こんな場所で、お気に入りの酒を飲み比べてみるのもいい。このBARは、副都心の夜の中で、もっとも好ましい場所の一つ。いろんなことはどうでもよくなって、アルコールのひんやりした匂いだけが心地よい。少し高揚した、ゆったり感。

はっきり言って、初めて行ったのだが。

オキテ、シュウマイ!

取引先の営業が、最後に僕たちを連れて行ったのは、フィリピンパブ。

その時既に、僕は眠さの限界に達していて、ほとんど意識がなかった。店の女の子達が、寝続ける僕を指して「この人はどこから来たの?何人?」と同僚 に訊いたところ、ためらいもなく「チャイニーズ」と答えた。おかげで、僕のコードネームは「シュウマイ」に決定したらしい。知らない間に、「シュウマイ」 と呼ばれていた。
「ウェイクアップ、シュウマイ!!」
「ガンバッテ!シュウマイ!!」
「オキテ、シュウマイ!」

薄れる意識の中で、「シュウマイ!」と呼ぶ声だけが聞こえた。

注:彼女たちの知っている中国語である、ギョーザ、シューマイ、シェイシェイの中から、シュウマイに決定したらしい。