東京、某所。表にランチメニューなんて貼ってない。一見には敷居が高い、というか、無理。
暖簾が下がっているわけだが、最近の良くある飾りみたいな高い位置にあるやつじゃなくて、ちゃんと潜らないと入れない。だから、入(はい)り口のあたりの布が、ちょっと寄っている。それがまた、難易度が高い。
それでも、魚を焼く芳ばしい香りに惹かれて引き戸を開けると、店の中は、かなーり昭和。で、凄い混んでる。戦場。客筋は食通っていうのではなくて、昔からこの店で喰ってる、みたいな人が多い。
数名のおばちゃんと、焼き方の板前(老練)が、謎のロジックで大入りのお客さんをさばいている。飯は軽めが良いとか、納豆から卵を抜いてくれとか、 早く焼けるやつをくれとか、そんな混沌とした注文をさばいている。厨房の脇の席で、恐ろしく熱いほうじ茶を飲みながら様子をうかがってみるが、どうやった らこれで注文を間違えないのか、さっぱり分からない。
メニューは定食だ。魚の焼き物が数種類。壁に貼った定食の短冊は、もはや変色している、何年も同じだ。日替わり、みたいな軟弱なものはない。ここには鯖味噌も、生姜焼きもない。焼き魚か刺身を食う店なのだ。
皿からこぼれる大きさの照り焼き。ちゃんとした焼き魚。熱々の味噌汁には、でかい木綿の豆腐と、若布。黙々と手で盛りつけられていく、刻んだ糠漬け (凄い旨い)、手加減の無い盛りの飯。ちょっと前は、昭和な塩分濃度だったけど、最近薄味になってきた気がする。時代の流れか、でもさすがにこれは歓迎す べき事だと思う。
表の塀では、三毛が刺身の切れっ端を夢中で食べている。奥の小上がりでは、僕が鰤照りを大喜びで食べている。