フォトエッセイの記事一覧(全 320件)

百葉箱

Photo: 雨の径 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.
Photo: "雨の径" 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

雨の匂いをかぐと、最初に通った小学校の景色を思い出す。

外に出られない雨の日、渡り廊下から外を眺めると、コンクリートで固められた灰色の中庭に、白い百葉箱が見えた。教室にも廊下にも、雨の匂いが充満していた。

いつも一緒に遊んでいる仲間達も、雨の日はちょっとバラバラ。晴れたら、また遊ぼう。

そういう暮らしが、ずっと続くんだと思っていた頃の記憶。暫くして僕は、親の仕事の都合で見知らぬ土地の学校に移り、二度と戻らなかった。


朝、バス停までの裏道は舗装が悪い。道はところどころ大きな水たまりに占領されていて、僕は花壇になっている分離帯の上をバランスをとって歩く。スーツ姿でやることじゃないけど。

踏み外さないように、バランスを崩さないように。

雨の匂いはきっと変わっていない。僕だけが、変わった。

居酒屋「どん底」

Photo: バケツ 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.
Photo: "バケツ" 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

新宿某所。

雨だ、雨が降ってきた。歩くのはもう疲れた。

客引きは、こっちが弱っていると見るや、執拗に声をかけてくる。視線をあいまいにしながら、彼らをよけて歩く、歩く。

傍らのゴミ箱には赤字で「どん底」。ゴミ箱の主が、そういう名前のお店だから、仕方ない。つたの絡まった、「どん底」の入り口が、おいでおいでしている。


結局、僕達は「どん底」を回避し、近場のバーで豆のシチューとクスクスを食べた。存外にたっぷりしていて、しかも美味しかったよ。

注:居酒屋「どん底」に行ったことはないが、きっと悪くない店なのだと思う。行ったことはないが。

行き止まり

Photo: 突堤 2002. Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2
Photo: “突堤” 2002. Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2

年齢を重ねると、出来ることと、出来ないことがわかってくる。いや、多分、わかったつもりに、なってしまうのだと思う。

漠然と、こうなるはず、と思ったことが何も叶えられないこと。夢に至る道程の、あまりの遠さと、望みのないこと。


それに、時代だって、きっと夢がないのだ。あるバーのカウンターで、僕の隣に座った二十そこそこの男は、こんなことを言っていた。
「やっぱり金が欲しいですよ、お金が、でも、少しでいいんです。やりたいことだって、無いんだから、、」


学生時代が終わって、就職して、みんなそれなりにプロの世界で、きちんと働いて。もちろん、脱落してしまった人や、道を変えた人もいるけれど、なんとかやっていて。で、ふと見回すと、皆、固まっていた。

周りの皆が、当たり前のように、夢を目指していた季節は終わってしまったのかもしれない。飲みながら、ばかばかしい夢を語ることだって、なくなった。現実にどっぷりひたって、昔の自分は埃をかぶっている。

あんた、その歳で何考えてるの?と言われるかもしれないけれど、もうちょっと夢が欲しい。少し大きな夢は、それを失わないで持ち続ける人間だけが掴める、、。


そうだよね?じゃなかったら、どうやって進めばいい?