「この花は何ですか?」
作務衣を着て、寺の階段を清めている老人に問うと、人の良い笑顔を浮かべながら
作務衣を着て、寺の階段を清めている老人に問うと、人の良い笑顔を浮かべながら
「いや、まったく存じないんです」
と恥ずかしそうに答えた。
冷え込んだ晩冬の日光が、その名前の知られぬ花を照らした。
写真と紀行文
「僕はここで育ったんです。で、縁あってこのお店に勤めることになりまして。」
帰り道から少しだけ外れたところにあるバーは、かなり急な階段を 3階分登らなくてはならない。ここが危うくて登れないようであれば、もう既に十分飲み過ぎなのだから、帰った方が良いのだ。
難しいカクテルは出来ない。いろんなモルトが有るわけでもない。でも、歩いて帰れるし、なにより天井が高い。バーテンダーは、多分僕より少し若くて、控えめな優しそうなヤツだ。
「凄い安いですね。でも、なんかこの前、」
そうそう、ドリアンを置いてたよね。誰が買うんだよあれ。
こんな都心で生まれて育つって、どんな気持ちがするの?
「寂しいですよ。小学校なんて、地元で通ってくる生徒は、全部で 100人ぐらいしか居ないんです。」
昔、社会の授業で習った「ドーナツ化現象」というのは、つまりはこういうことなのだ。長くて危なっかしい階段を下りて、外に出ると雨は上がっていた。バーテンダーは外まで降りて、見送ってくれた。