
ディスカバリーチャンネルをボーッと見ている。
南極のペンギン。
ペンギンは宿営地と餌場の開氷面を往復して生活している。
しかしある日、一匹のペンギンが宿営地と開氷面の真ん中で立ち止まる。そして、仲間から離れてただ一匹、遙か内陸の山脈を目指して歩いて行く。
例え、彼をつかまえて、宿営地に連れ戻したとしても、また山に向かっていくのだという。
海のない内陸部は遙か 5,000km 続き、待っているのは死。彼らが山に向かう理由は、分かっていない。
ヨチヨチ歩いていくその鳥は、最期に何を見るのだろう。
ディスカバリーチャンネルをボーッと見ている。
南極のペンギン。
ペンギンは宿営地と餌場の開氷面を往復して生活している。
しかしある日、一匹のペンギンが宿営地と開氷面の真ん中で立ち止まる。そして、仲間から離れてただ一匹、遙か内陸の山脈を目指して歩いて行く。
例え、彼をつかまえて、宿営地に連れ戻したとしても、また山に向かっていくのだという。
海のない内陸部は遙か 5,000km 続き、待っているのは死。彼らが山に向かう理由は、分かっていない。
ヨチヨチ歩いていくその鳥は、最期に何を見るのだろう。
例えば、音楽をやる人は、格好いいなと思う。姿が格好良い。
僕のように、文章を書いたり、写真をいじったりする人間は、そういう姿があんまり決まらない。
楽器を手に熱演するわけでも、マイクを通して観衆に訴えるわけでもない。ベッドに長座りして、ノートPCのキーボードをぱたぱた叩いているだけだ。
ライブ感なんてものも無くて、じっと書き続ける。もっとも、僕自身はスポットライトを当てられたいとか、まったく思っていないから、それはそれで快適なのだけれど。
何かを撮っている時は、ちょっとライブかもしれない。僕はけっこう真剣に撮るので、僕が撮っている姿を見る人は、「ああ、撮っているなぁ」と思うらしい。そいういう忘我が、ライブ感か。
その日、僕は昔勤めていた街に、久しぶりに足を向けた。昼には、昔良く行ったトンカツ屋に行こう、と決めていた。朝から仕事をして、昼が近づいてお腹が空いてくるにつれ、独特の衣のトンカツと、定食に付いてくる、ちょっと変わった漬け物の姿が、浮かんできた。昼、部屋ををそそくさと出ると、僕は冷たく細かい雨の中を、店の方角に歩き出した。街はあまりにも久しく、途中で一回道を間違えた。
いよいよ店が見えてくる。しかし、暖簾が収まるはずの場所には空白が。店の扉になにやら紙が貼ってあり、嫌な予感がする。幸い、店はまだ閉じられた訳ではなかった。ただ、真新しい張り紙によれば、もうランチの営業はしていないのだった。
まずい、これはまったく想定していなかった。腹が減っていて、雨が降っていて、トンカツを食べるはずが路頭に迷っている。こういう時、間違いなく僕の今日の昼飯は「外し」になる。避けようが無い。それは僕の経験からも、あらゆる食べ歩きの書物からも、明らかな真理だ。逃れられない、運命だ。
それでも、僕は無駄なあがきをすべく、無理矢理考えついた二番手の店に向かって歩き始める。
一番新しいネクタイを危険にさらすことは承知で、通り沿いの焼肉にしよう。とびきりうまいわけでもないが、リーズナブルで懐かしい。しょぼいワカメスープも、今なら美味しい。しかし、というかやはり、焼き肉屋は、意味不明なセンスの居酒屋に変わっていた。しかも、その居酒屋までもが店仕舞いしてい た。よろしい、これは想定の内だ。更に歩く。ちょっと遠いが、懐かしい中華料理屋で名物の湯麺を食べることにする。残業の途中でよく食べに行った。
床がヌルヌルして、厨房には下ごしらえで切られた野菜が笊に山盛りになっている。活気があって、台湾の下町のような匂いがする、、はずの店は、区画丸ごと、とびきり大きなタワーマンションになっていた。フロントにコンシェルジュ付き。
こうなれば、iPhoneに全てを託すしかない。食べログアプリを起動し、GPS周辺検索でランチトップに来た店に迷わず向うのだ。1位、中華料 理、ランチ平均予算2万円。無理。2位、カレー、ランチ平均予算千円。よし。ここにしよう。昔から店名だけは知っていたが、行ったことが無かった。
「お皿を取って、好きなだけ盛って下さい」
あまりの展開に、僕は業務用ジャーのご飯を大盛にし、巨大な豚タン入りのポークカレー(甘口)をかけていた。ポテトサラダを反射的に載せ、もやしの ナムルでバランスをとった。らっきょうを大量に追加した。なんだここは、カレーバイキングの店なのか?システムが分からない。席について、なにがなんだか 分からないまま、カレーを食べる。どんな状況でも、カレーはうまい。むしろ、カレーがまずいってのは、よほどのことだ。
直ぐに、左隣に二人連れのサラリーマンが座る。店を紹介したと思われる方の男は、太っている。
「ここは何度でもお代わりできるんですよ。xxなんか、いつも 4回はお代わりしますよ。僕はもう、ここ以外でカレーを食べる気がしないです。そうそう、xxなんか若いから沢山食べるんでしょう、いいと思いますよ、ここ」
うんざりだ。そう思った。カレー千円で食べ放題の店。おかずも盛り放題。お代わりし放題。それはつまり、デブまっしぐらではないか。まもなくして、 右隣にも、太った男が座る。太った男に挟まれてカウンターでカレー。まったくもって、うんざりだ。だいたい、俺は別にカレーなんて、食いたくなかったじゃないか。新しいネクタイにカレーって、最悪じゃないか。しかも、食べても食べても減らないのは、実は皿がとんでもなくでかいってことじゃないか。
しかし、もう遅い。空きっ腹をかかえて、冷たい雨の中を歩くよりは、食べ放題カレーでお腹が苦しい方が、いくらかは幸せなのだ、きっと。
左隣の男は、カレーのお代わりを盛りに行った。僕は大急ぎで残りを食べきって、外に出る。雨は止む気配は無く、しかしカレーのお陰で体は温かい。ネクタイも無事だった。満腹すぎるほど満腹だ。まあ、来年ぐらいに、もう一度食べに来てもいいか。