フォトエッセイの記事一覧(全 320件)

ペンギンは暑いと口を開ける

Summer penguin
Photo: “Summer penguin” 2013. Kyoto, Japan, Richo GR.

「アチイ、、アチイヨ。。」
「ダメダ、クチアイテキタ。。ミズ、ミズ」

お前ら、小屋に入れよ、せめて日陰に。

「ミズ、クルハズナンダヨ」
「ココニイタラ、ミズクルンダヨ」


飼育員のねえさんが言うには、今年の夏は暑さでプールの藻の繁殖がシャレにならないらしい。普段は休園日に行われるプール掃除では追いつかないんだという。掃除が終わるまで、ペンギン達は大人しく、水を抜かれたプールの底に立ち尽くしている。掃除機をかけるオカンを見つめる子供のように、日陰に入るわけでもなく、所在なげに。

「南半球に居る鳥ですからね、実際、暑さには結構強いんですよ。でも、ちょっとバテてますね。口開けてますね、早く水を入れないと。。」

暑がっているペンギンは、口を開ける、というのを初めて知った。犬か。

ワン。

Gentle eyes
Photo: "Gentle eyes" 2011. Tokyo, Japan, Apple iPhone 4S, F2.4/35

鮨屋。店の奥から気配がして、振り向いたら戸の影から顔を出していたよ。

「もう、18歳なんですよ。家に置いといたら、何あるか分かんないから、ここにね」

人間で言えば、もうご長寿と言われて久しい年齢。でも、毛並みはサラサラと見事で、目は澄んでいた。


僕は食べ物屋に動物が居る事には否定的だけれど、このご長寿の子を手近でみていたい気持ちはよく分かって、悪い気はしなかった。

首を撫でる。ワン、とも鳴かない。優しい目で、見返している。とても賢くて、優しいのだと言う事が、手に伝わる重みで分かる。そういえば、何年も前に、店の大将の家で君に会った気がするな。

帰り際、戸の影から小さく「ワン」と鳴いた。長生きしろよ。

羊ベェェ。

sheep
Photo: "Sheep" 2011. Yamanashi, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

ちょっと行ったところに、羊が居るらしい。そんな話を訊いて、旅先の宿から出かけてみる。

初夏の太陽がカッと照りつけ、高原のカラカラした空気の中でも、汗が出てくる。

時折日陰で休みながら、牧場へとてくてく歩く。


何かの理想をもってつくられた、瀟洒なペンションが建ち並び、かと思うと何かの理想が妥協になってしまった、ペンションだか民宿だかわからない建物がまじる。ああ、ニッポンの観光地、といった光景。

やがて県道沿いに、牧場が見えてきた。人気の無い、埃っぽい牧場。建物の影から、草刈り機の音がするが、人影は見えない。

かまわず中に入っていくと、囲いの中に、いきなり羊が居た。樹脂で出来た、いたって実用的な小屋の脇の、せまっくるしい柵の間に、午後の日を浴びながら我慢強く立っている。


ふれあい広場、の看板はあるが、係の人は居ない。柵の外から勝手に触れあう分には、無料であろうと解釈する。山羊が三匹ばかりと、羊が一匹の、ふれあい広場。

それにしても、えらく暑い。なにをするでもなく、羊が立っている。のぞき込むと、羊も僕をのぞき込んでくる。そして、ベェェェ、と驚くべき音量で鳴く。

ベェェェ、ベェェェ。

鼻の頭が、繊細にシワシワになっている。毛は短く刈られて、くしゃくしゃになって湿っている。暫く眺めて、ふむ、と思って背を向けると、わざわざ身を翻して、ベェェと僕を呼ぶ。


やや傾いてきた太陽の下で、ベェェと向かい合いながら眺めている。目が、白ブドウのように澄んでいた。