コロッセウムのネコ

Photo: 1995. Rome, Contax T2

Photo: 1995. Rome, Contax T2


イタリアはローマの中心街にあるコロッセウム。朽ち果てた古代の闘技場、イタリアではありきたりの観光地。

しかし、築数千年前の建物であるコロッセウムに、僕はある種の恐ろしさを感じた。原始の凶暴さというか、野蛮さ、のようなものが住み着いている気が したのだ。

すり鉢上の観客席からは、複雑に入り組んだ競技場の全景を見渡す。べったりと苔むした、かつての虐殺の空間には、なんともいえない禍々しさが漂うよ うに感じられ、勇んで写真を撮る気にはならなかった。

コロッセウムは、遺跡というより廃墟と言った方がよい。遺跡と言うには、生々しすぎる場所なのだ。壁面には、石組みを支える鉄骨を掘り出した穴が、 無数に空いている。掘り出した金属は、戦争に使ったのだという。かつて木製の天蓋がついていたと言われる内部に、今は晴れ渡ったローマの空が広がってい る。


そんなコロッセウムの柱の陰に、ローマの野良猫を見つけた。

妙に怖い目つき。

「じっとしてろよー」となだめながら、近づいた。が、威風堂々としたもので、逃げる気配は無く、結局は撮り終わった僕が早々に退散した格好だ。世界 の遺産を根城にしているだけのことはある。道化の仮面のような、切れ長の目。なんともかっこよく、なんとも怖い雰囲気。

痔ではない

補足。

前回の[今日の一言]を読んで、多くの方から「俺もよく切れる」とか「良く効く秘薬がある」などのご親切な反応をいただきました。ありがとうございます。

ところで、作者は「痔ではない」ということをお伝えしておきます。痔は外科です。

秘薬をいただいても、どうしようもないので、困っているほかの方にあげてください。お気持ちだけ頂いておきます。

トイレに行くと、血が

今回の「今日の一言」には、医療機関に関する話題が登場します。医療関係の話題に関してアレルギーのある方は、ご自分の判断でご覧下さい。

寝る間際にトイレに行くと、血がだらー。

あーあ、今月も始まっちゃった。今回は少し早いわねー、、って俺は男だ。なんだ、この血は。

社会人たるもの、少しぐらい体調の悪さをアピールしてこそ、価値がある。不調な部分一つ無い、というのでは、「頭悪いのではないか?」と思われてし まう。しかし、血というのは、どうよ。ショッキングすぎるというか、引いてしまうというか、これはやばい。命がやばい。病院に行こう。


翌朝、思いっきり浮かない顔をして近くの大学病院へ行った。受付で、いったい何科に行けば良いのか相談する。

看護婦「痔はありますか?」
僕「血(ち)?」
看護婦「いえ、痔です」
僕「いや、ないと思いますけど」

血が出たら、痔の人は外科に、それ以外の人は消化器内科に行くと良いらしい。

生まれて始めて消化器内科で、診察を受ける。中に入ると、担当は女医。職業上、女だからどうとか、男だからどうとか、そういうことは思わないのだが、はっきり言って、この状況で女医さんはやめてほしかった。何をされたかは、ここには書かない。

結論としては、「たぶん平気(出血多量で死んだりはしない)でしょう。痔かと思ったけど、ないみたいなんで、明日、検査します。それまでは、なんとも言えません」とのこと。「検査までは、消化の悪いものは避けて、ウドンとかを食べてください」だって。

はんぺんと、麩(ふ)と、豆腐が具という(ネギは禁止)、涙が滲んでくるようなウドンを食べて寝た。


翌朝、起きてみると、やたらに爽やかな感覚。体の中身が軽い。昨日から、ウドン粉、豆粉、魚のすり身しか食べていないせいだと思う。僕は、暴飲暴食 をする性質ではないのだが、それでもシンプルな食事というのが、体に変化をもたらしている気がする。切り詰めることによる快楽というか、そういう感覚があ る。

朝は、お茶だけ飲む。

病院までは歩いていける距離なので、てくてく歩いていく。なんとなく、感覚が鋭くなっている気がするのは、別に腹が減っているせいではないと思う。よく断食をすると、こんな感じがするらしい。


さて、検査の詳細だが、あえてここでは書かない。ただ、もう二度とゴメンだ、ということは確か。今まで、この手の検査をしたことの無い人は、人間 ドックにでも入って、一度経験してみることをお勧めする。胃カメラとはまた違った、斬新な体験ができる。そして、誰でも、健康の大切さを思い知るだろう。

一つだけ書いておくと、この検査は前準備が大変だ。検査を受けるには、準備として先ず、「塩スライム」みたいな液体を 2リットル飲まなくてはならない。それは何か?といえば、「薄塩味の、スライムのような喉越しをもった半透明の液体」としか言いようがない。この「塩スラ イム」が、ヤクルトみたいな容器(ただし 2リットル入り)に、なみなみと入っている。この、巨大ヤクルトを1人1本あてがわれ(マイ・ボトル)、被験者は、まるまる飲まなければならないのであ る。
「塩スライム」の味が物足りない人には、「レモン味付加モジュール」も提供されている。「塩レモンスライム」、、。ただでさえ気色の悪いも のに、更に味をつけようという神経は、僕には理解できない。いずれにせよ、この責め苦は、内臓に対する、今までの数々の自分自身の悪行を悔いるに十分なも のだと言える。


結果は、致命的にやばい病変はなかったし(傷はあった)、「次回は親類の方もご一緒に」とも言われなかった。「大きな問題はないです」とのこと。(まだ、医師の口から正式に結果は聞いていないのだが)とりあえず、働きすぎはよくない、というのが教訓。

病院を出ると、初冬の景色がとても美しく見えた。降り積もる落ち葉に、冬の長い日差しがきらめいていた。まあ、筋弛緩剤のせいで、瞳孔が開いていただけだが。

注:筋弛緩剤。この場合、内臓の動きを止めるために打たれるが、いわゆる筋肉全体を弛緩させるので、体中おかしくなる。瞳孔の大きさを調節する筋肉にも影響を与えるため、一時的に光量調節が利かなくなる。そのため、しばらくはファンタジックな景色を楽しむことができる。