音楽の浸透圧

Photo: 夜の底 2003. Tokyo, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8

Photo: "夜の底" 2003. Tokyo, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8

音楽には浸透圧のようなものがあって、その時の気分とあえば、スッと体に入ってくる。

それが見つからなくて、夜中に CD をえんえんとかけかえたりすることがある。

夜に何を聴くかと考えると、定番と言われる Glenn Gould の Goldberg Variations. この曲、そもそもはある伯爵の不眠症を癒すために作られた、言ってみれば子守歌だ。その鮮烈な演奏に、1982年の解説書には、「子守歌の効果をひきだす ことは不可能であろう」とあるが、神経が高ぶっているような時は、かえってよく眠れる。ちなみに、僕が聴いているのは、Gould 最晩年の録音、そこにある静謐。


人間は衰えていくものだけれど、年を経てもっと自然に、自由になるってこともある。昔、まったく良いと思わなかった歌手が、ふとすごく抜けて、良い感じになっていたりする。YUKI とか。

そういえば、世代的には YUKI って、多分リアルタイムだとは思う。(当時はバンドだったけど)

M-ON! あたりで最近やたらに流れている JOY って曲がなんとなく気にいっていて、力の抜け方が、聴いていてとても気分が良い。PV での格好は、あしたまで(年に 3回ぐらい見る)「下北沢でパンを買いに並んでる女子」なんて言われていて、言い得て妙だけど。(頭が二色になってるし)


CBS SONY, “Glenn Gould, Goldberg Variations” 解説書から、1982年、諸井誠。

世界遺産(のレプリカ)の横

Photo: 長城の横の遊園地 2004. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105

Photo: "長城の横の遊園地" 2004. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105

中国に来たからには、万里の長城は見たい。しかも高速道路ができて、3時間もあれば往復できるらしい。時間は無いが、早起きすれば、、。「早朝とかでも来てくれるんですかね?」

日の出、息も白い頃、ちゃんとツアーのバンが待っていた。


光化学スモッグに曇る北京市中心部を抜けて、郊外(!)の万里の長城へ。なんだ、万里の長城って市内にあるのか。しかし、市といっても 1.68万平方キロ(東京都が 1,781平方キロだから、その 10倍弱)もあるから、やっぱりそんなに近くには無い。

20代前半のガイドは分かりやすい英語を話す。農民籍の出身だが、大学を出て観光の勉強をし、英語も覚え、ガイドになったらしい。将来のニューリッ チの予備軍というわけだ。そのガイド曰く「万里の長城は年々短くなっています。近所の住人が家をたてるのに石や土を持っていってしまうから」

ホントかよ。でも高速道路から見る古い長城は崩れ果て、埃っぽい景色の中に貧しい家々が建つのを見ると、それもうなずけるように思う。それに、中国、というこの土地なら、それぐらいはあるだろう、と思える。


そして万里の長城へ。車を降りた瞬間から、立ち並ぶお土産屋、ノシノシ歩く記念撮影用のラクダ(なんでラクダ、、)、もう完全に予想できた世界ではある。(ガイド曰く「ラクダを写真に撮ると、金をせびられますよ!」)

実際に長城を歩いてみると(ガイド曰く「これは 30年ぐらい前につくったものです」)、まさに山の稜線に沿って建築されているのであって、観光用に整備された部分(ガイド曰く「もう 600回以上来ましたよ、ここ」)を歩くのでさえ、ちょっとうんざりするぐらい長い。長すぎて、途中で引き返した。いったい、あれをどんどん歩いていく と、どこまで行けるのだろう?南に行けば、(本当の長城は)海に出る。


長城は、壁の部分と見張り台の部分から成っており、見張り台部分では 監視カメラが目を光らせ、おみやげ屋と、ラクダ屋(写真が撮れる)が待ちかまえている。(ガイド曰く「とんでもなく高いから、買うべきじゃありませ ん」))お客は、日本人もちょっと居るけど、大半は中国の他の地方から来た人たち。日本で言えば、天橋立とか、浅草とか、そいういう感じか。まるで、遊園 地だな、、と振り向くと遊園地があったよ。

世界遺産(のレプリカ)の横に、何の躊躇もなく遊園地をつくってしまうこの国、このシュールな光景。よく見るとジェットコースターが走ってる。もの すごく乗ってみたかったが、誰も乗っていなくて、そもそも何の動力で動いているのかいまいち分からなくて、やめた。(戻って来られないような気がした)こ の勢いでは、北京五輪に向けて、「万里の長城ホテル」ぐらいは建てそうな気がするよ。
ガイド曰く「翡翠の工場があるんですが、帰りに見に行きますか?」

なんだ、結局、お前も何か売りつけたいのか。(しまいに、お茶を買わされた)

自家製ソーセージ

Photo: 自家製ソーセージ 2005. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

Photo: "自家製ソーセージ" 2005. Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

えらく忙しくて、考えることもやることもいっぱいある感じ。いっぱいいっぱい。息抜きに、近所の店に食事がてら飲みに行く。そしてたら、お客さんが立て込んでいて、店主がいっぱいいっぱいだった。(ガラガラと皿を割っていた)

一段落するまで、とりあえずお預けをくって(水もでねぇぞ)、「ごめんねぇ?」というアイコンタクトを交わしつつひたすら待って、どさっと出てきた前菜の盛り合わせは盛大な量。

久しぶりに行ったらメニューが一新されていて、どれも楽しい。自家製、というソーセージは、とても肉々しくて、ハンバーグ?と思うようなずっしりした重さ。ピザ焼きの窯で焼かれた熱いところを、ナイフで崩すように食べる。


お客さんが引けて、近所の店のシェフも飲みにやってきて、ワインを飲みながら色々話す。店のやり方、というのは本当にその店のオーナー次第で、完璧 主義とか、なんでもアリとか。広げる人もいれば、決まったスタッフを固定で何年も使う人もいる。そこから、店の雰囲気ができあがっていく。店のオペレー ションは、日々不断の努力だから、誤魔化せない。
「でも、結局、店っていうのはお客さんなんですよ」
「客層ってこと?」
「いやいや、店にいつもお客さんが居る、っていうこと自体が大事なんです」

そういえばそうか。