秋刀魚

Photo: 秋刀魚 Tokyo, 2005. Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

Photo: "秋刀魚" Tokyo, 2005. Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

客もひけて、静かになった店内でなにかの社長だという客のオヤジが、つまらない繰り言をえんえんしゃべっている。僕はそういうヤツに対するサービス 精神が皆無なのであって、冷たくあしらう。時として、そういう態度が新鮮らしく、気に入られることもある。困る。こっちは泡盛の杯を片手に、資料を読んで るんだから放っておいて欲しい。


そうこうするうちに、今年最初の秋刀魚が出てきた。まるまるしていて、しかも走りだから脂が軽い。

薄い皮と、ふっくらした身の間に、溶けた脂が流れている。本当の焼き魚は、身を焼くのではなくて、脂を溶かすのだ。資料をカウンターに置いて、秋刀魚に向き合う。社長殿はまだなんかしゃべってるが、もう、耳に入らないよ。

注:もちろん、普通に話す人は全然イヤじゃない。友人が、「とうとう俺らも飲み屋で知り合いをつくる年になったか、、」と感慨深げに言っていたので「笑笑で学生と殴り合ってるよりいいだろ」と答えておいた。

New Orleans

会社に入ったばかりで、初めて海外出張した場所、ニューオリンズ。
温暖な気候と、Big easyと言われるおおらかな気質。ホテルの部屋で仕事をしていると、それはそれは陽気なハウスキーパー二人組がやってきて、
「swampは行ったか?」
とか、
「モールで何か買ったか?」
とか、
「プールはどうだ?」
とか、
「しまいには、ご両親はどうした?」
とか。
いやいや、確かにアジア系は年少に見えるけど。
電気の消えた暗闇の街を、ショットガンで武装した警官が緊張の面持ちで歩いていく。ハリケーンは南部のあののんびりした空気も壊してしまったのか。
あるいは、外の人間にはとても分からない緊張が、あの土地にはやはり潜在していたのか。

カメラのはじめ

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思えば、写真が趣味になったのには、2つの理由があった。インターネットが登場したことと、CONTAX T2に出会ったことだ。
初めての海外旅行にもっていくためになにげなく買った、T2。その当時、レンジファインダーと一眼レフの区別も付いていなかったのだが、出来上がってきた写真を見た時には本当に驚いた。この絵は凄いな、と。
特に、ベネツィアで撮った何枚かの写真は、まともなカメラで写真を撮るのはせいぜいフィルム5本目程度の自分が撮ったとは思えないものだった。もちろん、背景にはベネツィアという都市の力があるのだが、それにしても、こんなものができてくるという驚きが写真の魅力に「はまらせた」のだ。
今から考えてみれば、水の風景というのはZeissのレンズにとっては、ある種独壇場で、なんの期待もてらいもなく切ったシャッターは、2度と撮れないほど無心ではあったのだと思う。今でも、その写真はとても大事だ。
もう一方のインターネットがなければ、これほど写真を撮ることは確かに無かったとも思う。文章と写真を組み合わせるということを、1997年ぐらいからやってきたのだが、あまり物理的なものとしての写真に囚われたくない自分としては、それをネットの上だけで展開するというのは魅力的であった。事実、フィルムスキャナとデジカメを本格的に使うようになってから、撮影枚数は劇的に増えたにもかかわらず、プリンタを使った数枚のお試し印刷をのぞき、僕は1枚たりとも紙焼きをしていない。