“No reservation” は、ニューヨークのシェフが、世界各地を食べ歩く番組だ。今回は大阪。酔客に、鉄板の前で尖った鉄ぐしを使わせる、セルフのたこ焼き屋に、ホストのアメリカ人は驚いている。「もし客が怪我でもしたら、ニューヨークじゃ、訴訟ものだ!」ある文化で普通に許容される行為が、他の文化では驚くべき危険な行為に見られる事がある。
であれば、野生の鹿に観光客が食べ物を与える、しかも柵なし。観光客の中には子供も、そればかりか幼児もいる。そんな、奈良の光景は驚きだろう。たいていの牡鹿の角は落とされているが、なかにはそうでないのも居る。
僕も驚いた、犬じゃないんだし。大型犬なんかより、余程大きく、小さい馬並みの脚力がある動物を野生のまま街中に放っておくなど、世界中に例があるだろうか。さらに、そいつらにあげるための食べものを売っているという街が、世界のどこにあるというのだろう。ああ、インドの牛はそうかもしれないが。
鹿煎餅を買った段階から、ヤツらはこちらを見ていたに違いない。何も持っていないときは、プイッと遠くの方で群れているくせに、煎餅を手にしたとたんに、トコトコトコトコ寄ってくる。平日であまり観光客が居ないせいか、鹿煎餅の競争率は高い。煎餅を手にした観光客に、すぐに鹿どもが襲いかかる。手のあたりを、クイッと見つめて、一目散にやってくる。
まずは、前から頭でコンコンつついてくる。かと思えば、後ろからガブーッとTシャツを噛んで、引っ張ってくる。こっちよ、こっちよ、という感じ。煎餅を口のあたりにもっていくと、一種異様な情熱でパリパリ食べる。鹿煎餅って、いったい何が入ってるんだ??
うろうろしている鹿に、煎餅をあげる。これは、意外と、相当面白い事に気がつく。ヤツらは確かに野生で、きままに色んな所に居て、色んな所に移動している。その不確定さが、相当面白い。多勢に無勢で囲まれた時に、結構怖いのもまた、面白い。それでも、日本文化の中で育った「野生動物」らしく、そんなに凶悪には図々しくないのも、また面白い。
意外と素早い動きに、マニュアルフォーカスカメラはなかなか付いていかない。それでも、Tシャツを食われながら撮った表情は、やっぱり意外と、野生動物だね。