ロシア人にとって、一杯は少ない

Photo: "Square of the Fighters for Soviet Power in the Far East. / Площадь Борцам за власть Советов на Дальнем Востоке."

Photo: “Square of the Fighters for Soviet Power in the Far East. / Площадь Борцам за власть Советов на Дальнем Востоке.” 2017. Vladivostok, Russia, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter

「ロシア人にとって、一杯は少ない
二杯は多い。だから、三杯だ。」

Discovery channel でやっていた番組で、ロシアのウォッカメーカーの研究員が言っていた。
わけが分からない。

そうして、ドロドロになるまで凍らせたウォッカで乾杯。三杯どころではない、四杯も五杯も飲み続けるのだ。
わけが分からない。

その答えは、ロシアに行けば分かるだろうか。


結論としては、分からなかった。だって、誰もウォッカなんて飲んでないのだ。地元ではちょっと有名らしいホテルの、この広いレストランで、そんなものを飲んでいるのは僕だけだった。もっと、ロシアな居酒屋を目指すべきだったのか。あるいは、凍える厳冬期に来るべきだったのか。

答えは、持ち越しだ。一杯は少ないかというえば、まあ、それで十分な感じだった。

生ロシア軍

"Vladivostok port."

Photo: “Vladivostok port.” 2017. Vladivostok, Russia, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter

生ロシア軍って、多分初めて見た。そして、一旦見てしまうと、ウラジオストク中に軍があるので、見慣れる。

軍港としてのウラジオストクには、ロシア太平洋艦隊の総司令部があり、両舷に並んだ対艦ミサイルの発射管が印象的な、旗艦ヴァリャークが停泊している。空母を守るイージス艦がいかに凄かろうが、それ以上に沢山ミサイル撃てばいいでしょ的、おそロシア式ドクトリン。

米第七艦隊と相対するためのロシア太平洋艦隊も、ソ連邦の崩壊に伴って大幅に艦艇数を減らしているという。そもそも、外国人がウラジオストクに立ち入ることができるようになった事自体が、歴史の移り変わりを感じさせた。


軍港は民間の港に隣接していて、基地の直ぐ横を歩いてウラジオストク駅の方に抜けることができる。ゲートを過ぎると、フェンスの向こうにはちょっとした官舎が建ち並んでいる。右手をギブスでグルグルにした、おそロシアな兵隊が、上半身裸でこちらを見るともなく立っている。側らには、黒い小さな犬がちょこんと座っていた。犬も飼えるのか、ロシア軍。

ディストピアビュー

"From room window."

Photo: “From room window.” 2017. Vladivostok, Russia, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter


ホテルの部屋の窓から、必ず写真を撮る。ここ数年、そうしている。

ウラジオストクの中心部から少し離れたホテルは、前の道路が路面電車のレールの撤去工事中で、空港からのタクシーは容易に近づくことができなかった。結局、300mほど離れた高速の高架の下で降ろされる。おそロシア。


見たことのないブランドのエレベーターに乗って(外国に行くと、エレベーターのブランドを見てしまうのは僕だけか)、5階へ。緑色の扉を開けると、部屋は思ったよりも広く、ベッドはやたら低く、そして何か虫が飛び回っていた。夏のツンドラが、酷く羽虫に覆われるように、ウラジオストクも存外虫が多い。

レースのカーテンを開けて、外を眺めると、そこは元国営工場か何かの廃墟。巨大な朽ちかけのコンクリート製サイロが、部屋からのビュー全てを覆い尽くしている。あえて言うなら、「サイロビュー」。朽ちているように見えて、車両が停まってなにか工事をしているような雰囲気もある。謎の給水塔のような巨大な部品が、側らに転がったまま錆び付いている。こんなディストピアな景色を展開するホテルには、ちょっと泊まったことが無い。大変、気に入ってしまった。

虫を追い出そうとして、窓をいじっていたら、窓ごと外れかけた。それもまた、おそロシア。