龍山寺

Photo: 1995. Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

Photo: 1995. Taipei, Taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

元日本軍属のたち。彼らに日本への憎しみはない。そして僕達は、彼らを知らない。


台北にある、龍山寺。ここには日がな一日、より集まる老人たちの一団がいる。彼らこそ、かつて「大日本帝国」の軍属として、日本の旗のもとに戦った 人たちだ。歴史というのは、教科書に書いてあるほど理路整然としたものではない。彼らの立場もまた、オフィシャルな歴史というものからは、語られることは ないのだろう。では、歴史とは誰がつくるものなのだ?

この写真を撮ってから、7年以上。事実も、記憶も、思いも、押し流し、年月は過ぎていく。

Kyocera CONTAX T2, Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/38

Photo: contax T2 2001. Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D(IF), Fuji-film.

Photo: "contax T2" 2001. Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D(IF), Fuji-film.

1984年に発売され、ハイエンドコンパクトカメラという新しいジャンルを開拓し、一部に絶大な人気を誇った CONTAX T。その後継機として、1990年に発売されたのが CONTAX T2だ。そのシンプルで美しいデザインと機能のバランスで、ハイエンドコンパクトカメラを広く普及させるきっかけとなった。小さな外見とは裏腹に、手に持つ と、カッチリした精密機器の手応えがある。

T2は、僕がカメラと出会うきっかけとなった機種だ。初めての海外旅行に、「写ルンです」を持って行くわけにもいくまいと、新宿のさくらやで買った。カメラの ことは何にも知らなかったのだが、店頭で初めて見て、その美しいフォルムとキレの良いシャッター音に惹かれたのだ。(えらく高かったから、凄く迷ったのだ けれど、その日のうちに買ってしまった)

T2は、CONTAX Tで当時の技術的限界から見送られたチタンを、ボディー素材として採用。極めてフラットなデザインに、Tシリーズのアイデンティティーと言える「Tカット」が施している。ボディーの金属には十分な剛性と厚みがあり、持っていて頼もしい。(戦場で、弾丸からカメラマンを守った逸話もある程だ)滑らかな 多結晶サファイア製のシャッターボタンは、購入してもう 10年近くになろうとする現在でも、その滑らかさを失っていない。

直感的なダイアルオペレーションのMF機構と露出補正、小さなレンズに内蔵した絞りリングなど、コンパクトカメラの操作系としては完成の域に達している。レリーズタイムラグも少なく、シャッ ター音はGシリーズに近い歯切れの良い金属的な音。(決して、大きな音ということではない)ただし、オートフォーカスには癖があり(全然ダメだという人もいる)、 ファインダーの表示と実際にフォーカスされる側遠ポイントにずれがある。このため、使いこなすにはちょっとしたコツがいるし、ピンぼけしてしまうケースも 多い。道具としての性能ならT3が上、ただ、存在感ではT2に軍配が上がる。


Photo: Venice 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/38, Agfa

Photo: "Venice" 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/38, Agfa

T2が装備する、Carl Zeissの小さな Sonnar T 2.8/38は、時々、驚くほどキレイな光を捕まえてくる。半面、「あたりだ」という絵をとるのが、なかなか難しいレンズでもある。T2の後継として発売されたT3 の Sonnar T 2.8/35はよりアベレージで優秀なレンズだが、当たり外れの激しい T2のSonnar T* 2.8/38の方を好む、という人は今でも多い。周辺光量落ちがやや強いものの、SLRの妥協品としてのコンパクトではなく、あえてTで撮りたい、と思わせるレンズ。このT2のSonnarでしか撮れない絵というのが、確かにある。

T2の一番の特徴は、一見しては全く目立たないこと。小さくて見た目が控えめなので、撮られる人が身構えないし、割とシャッターを切りにくい状況でもサッと出して撮ることができる。外国の地下鉄、立ち入り禁止の鉄条網の内側等、いかにも危なげな状況で威力を発揮してきた。シンプルで直感的なオペレーションと、 金属ボディーの信頼感、そして特徴あるSonnar。現代でも十分通用する、手に馴染む道具としての魅力を持ったカメラだ。

L.A.空港でこれを書いている

Photo:1995, Westin Bonaventure, Los Angeles, CA, USA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-film.

Photo:1995, Westin Bonaventure, Los Angeles, CA, USA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-film.

文章は、時間を超えて、人の鼓動を運ぶ。

部屋の片付けをしていると、昔使っていた手帳が出てきた。日に焼けて退色してしまったサザビーのシステム手帳。その中には、ある日、Los Angelesの空港で書いたメモが綴じてあった。僕が旅をしながら書いた、多分初めての文章だ。


L.A.空港でこれを書いている。誰にあてた文章でもないけれど、いつか誰かが読んでくれるかもしれない。

出発までの1時間、ロビーに座り、オレンジジュースを飲んで、村上春樹を読んでいる。見知らぬ土地で、1人きりで、小説を読むのは、けっこういい気 分だ。僕は、一人旅なんてできないタイプだと思っていたけど、けっこう向いているかもしれない。1人だと、日ごろ自分が、いかにまわりに気をつかっている のかが分かる。

3年前と同じように、慈善団体の怪しい男が、寄付を募っている。アメリカに最初に来たときは、空港中にたちこめる外国のにおいに圧倒された。今はそんなことはない。

旅行者というのは、ある種気分のいいものだ。何も期待されないし、何の責任もない。僕は旅が好きだ。切り離された感覚が、とても好きだ。今居る、デルタ航空のゲートからは、メキシコにだって行けるんだ。でも、これから帰りの便に乗る。日本に、僕は大切なものを置いてきたから。


だってさ。