起きる起きると言いつつ、起きる気配のない友人を部屋に残し、一人で食堂に降りた。
さっぱり英語は話さないおばちゃんが指し示すメニューは、ロシア語と簡体字併記で手に負えない。漢字の雰囲気から、コンチネンタル・ブレックファーストのようなものを注文した。
それにしても、まだ昼前だと言うのに、開け放たれた窓からは熱気を帯びた空気が入ってくる。極東ウラジオストクの7月が、まさかこんなに暑いとは思わなかった。スーツケースの大きなスペースを占めるフリースと、カーディガンの出る幕は無い。
紅茶はティーバグで、自分で入れる。トワイニングと、読めないラベルの多分ロシア・ブランドのティーバグ。もちろん、地元の方を選ぶ。やっぱりここはお茶の文化なので、コーヒーよりお茶が幅を利かせている。
お茶を啜りながら待っていると、運ばれてきた。ちょっと共産主義ディストピア定食みたいで、ワクワクする見た目。薄切りのトーストと、チーズ、ハム、苺ジャムとバター。200ルーブル。テレビCMを見ていると、ハムとスライスされたチーズ(スライスチーズではない、塊を切る文化だ)とパン、という感じの朝食の光景なので、割と現代のロシア的なメニューなのかもしれない。
とても質素で、まるで高級では無いのだけれど、トーストが抜群にうまい。元がそういうものなのか、おばちゃんの腕が良いのか、サクサクにむら無く焼き上げられていて、とても軽い。少し味の濃いバターがぴったり合う。
こんな極東アジアの一角に、こんなにきちんとパンを扱う文化が有ることに驚く。こういうものは、一朝一夕にには多分できない。ベトナムのフランスパンの旨さにも驚いたが、ウラジオストク郊外のなんでもないホテルのこのパンも、ちょっと忘れられない味だったのだ。
見た目の三倍くらい満足な朝食だった。