
ふと、一眼レフを買って、翌日。
空は晴れ渡って、しかも日曜日。朝日を撮ろう、という企みには、もちろん遅すぎるが、光の良いうちに何かを撮りに行くには申し分のない時間。
朝のマクドナルドで、もそもそとフランクバーガーを詰め込む。モスに比べると、ここのソーセージはお話にならない出来だけれど、舌が寝ぼけているから、まあ許す。で、どこに行く?多摩川へ。
心を揺さぶらないように、毎日を送る。
楽しくはないけれど、寂しくもない。ちゃんと見ない、ちゃんと聞かない、ちゃんと考えない。そして、ちゃんと感じない。心を鈍くする。平穏、確かにそうだ。
でも、その鈍さは冷たくて、少しずつ自分を傷つけ、疲れさせる。少しずつ、やわらかいところを奪い取っていく。あの頃の自分を、取り戻せなくなるんじゃないか?そんな不安を感じる。でも、振り返るのは、恐い。
昔聴いた CD を引っ張り出して、10曲目をかける。あの時、俯いて聴いた曲が、鈍く耳に響く。辛くもなく、悲しくもない、懐かしささえ、感じない。
心を揺さぶらないように、毎日を送る。
まるで、他人のために生きてるみたい。
駅に降り立つと、奇妙な乖離感。
太陽が、頭の上に向かってぐんぐん昇る。空気がじっとり熱い。体に潜り込む、饐えた臭い。どす黒く汚れ、ベタベタした歩道。壁には、引き剥がされた ポスター、墨絵のような雨だれ。歩く人びと、投げる視線とコトバ。見慣れたいつものトウキョウとは何かが違って見える。それは、アジアの一風景。この街と のなれ合いが、その朝だけ、ふっつりと消えた。そんな感覚。
いつもとは違う道を、てくてく歩いた。
通りには、沢山のチラシを貼り付けた看板。砂埃、人いきれ、なんて汚い街。路地に飛び込むと、携帯電話で何かを話す若い男と目があった。コトバは、聞き取れない。濃い緑の、ジャガーが横断歩道を走り抜ける。
やがて、高層ビル群を傍らに望む、大通りに出る。道路は、ぴしっと直角。真っ白なセンターライン。強いビル風が、背後の喧騒を吹き飛ばした。重なり合う、幾つものビルのシルエット。夏なのに高い空。そして、空に解け合う数千の窓。息を飲む透明さ。