大阪のホルモン屋

Photo: 大阪のホルモン屋 2003. Osaka, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

Photo: "大阪のホルモン屋" 2003. Osaka, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

「さぁっ、次なにしよう。ミノか、よっしゃっ、じゃあミノ行こう。」

きっぷがいい、という言い方がぴったりのホルモン屋のおやじは、もう 30年以上、ここで商売をしている。

そんなおやじの店に行くようになって、3年ぐらいになるだろうか。

場所的には鶴橋あたりなのだが、ちょっと思いつかない場所にあって、僕たちがその店を最初に見つけたのは、まさに偶然。2軒ばかり外した店に入ってしまい、それでも納得がいかなくて、ふらふらとさまよっている時に見つけた。ホルモンの暖簾、昔ながらのカウンター、関西独特の焼き台。凄く美味いか、全然ダメか、もうどっちかしか無いという感じ。思い切って、暖簾をくぐった。


以来、大阪に行くたびに、できるだけ寄るようにしている。ある時は、同席のおばちゃんに人生を占われ、ある時は、カウンターの隅で喰っていたおっさ んに神戸あたりでのキセルのやりかたを(別に教えてくれと頼んでいないんだが)教わったりした。食べ物だけじゃない、本当に、ディープな大阪の空気がある場所。

カウンターには、ブリキの「味の素缶」みたいなものとか、怪しい胡椒容器とかがあって、オヤジはそれをちょいちょいとタレに溶かして、出してくれ る。いったい何が入っているのかちっとも分からないけど、ここでしか食べられない味がする。僕はホルモンをそれほど好むわけではないのだが、ここの店のは 別だ。ホルモンが新鮮なのは言うまでもなく、かなりちゃんと掃除(下ごしらえ)をしているんではないか。僕が、この店の様子を話して聞かせた板さんはそん なことを言っていた。


今日、テレビ(なぜかトリニトロン)は甲子園の阪神戦を映していて、カウンターには僕たちだけ。ミノをつついていると、阪神が逆転サヨナラを決めた。僕は、野球には全く興味はないのだけれど、大阪で、ホルモンを喰いながら、阪神の逆転勝利を見る、というベタベタの状況に思わず声をあげた。
「おー、すげーーっ」

カウンターを出て、テレビを凝視していたオヤジもご機嫌だ。今年の阪神は強い。さて、そろそろ次のメニューを頼むかな?


注1:一般的にはテレビのついているような店は、ダメということなんだろうが、それはあくまでもつまらん一般論ではある。テレビがついていてもこの店は美 味しい。あと、ジャズが流れている居酒屋はよくないというのもあるみたいだが、ジャズが流れていても、凄い良い店はある。(チェーンじゃないよ)
注2:それでも大阪は好きではない

戦場カメラマン ジェームズ・ナクトウェイ

僕は戦争を食い物にしている、学者とか評論家とかを見るたびに、年に一度ぐらいは地雷掘りにでも行けよと思うのだが、戦場カメラマンはそれに比べれ ば自らを危険に曝しているという点に於いてまだ許せる。写真はその場に立たなければ、どんなに腕の良いカメラマンでも撮れないからだ。

しかし、それでもなお、被写体を搾取しているかのような、そんな印象は消しがたいものがあるのであって、素直に称賛する気にはなれない。人の不幸で 飯を食っている、成功している。カメラマン自身もまたそんな気分になることがある、それはノルマンディー上陸の写真などで有名な戦場カメラマンであるキャパも言っているし、現代で最も有名な戦場カメラマンの一人であるナクトウェイも言っている。

戦場カメラマン、ジェームズ・ナクトウェイ (James Nachtwey) の写真を初めて見たのは、ボスニア内戦が激化した頃だった。当時、日本のメディアがほとんど取り上げなかったボスニアでの戦いは、かろうじて一部のメディアが外報の転載という形で伝えていた。僕が見たのは、ドイツのシュテルン特約のボスニアの写真。トラックが、荷台一杯の兵士の死体を穴に流し込んでいる瞬 間を撮った一枚だった。

その写真の、あまりにも戦争の中に入った視点、冷静な構図と撮影技術は僕に強い印象を残した。当時は、別に写真が趣味でもなんでもなかったから、その撮影者の名前は見もしなかったが、後にたまたま買ったナクトウェイの写真集で、その写真もまた彼の作品であることを知ったのだった。


10月24日まで、東京都立写真美術館で上映されている映画 war photographer は、そのナクトウェイについてのドキュメンタリー映画だ。ある日曜日、僕は意味もなく一眼レフをリュックに入れ、電話で上映時間をチェックして、その映画を見にいった。

ナクトウェイの一眼レフの上に付けられた小型のCCDカメラ。映画は、新しい技術を使うことで、今まで本人以外の誰も見ることができなかった、戦場カメラマンの視点を、スクリーンの上に映しだしていた。ちょ うど、カメラ上部のステータス表示液晶と、モードダイヤルが画面下に入るフレーム。音声には、ナクトウェイの息づかいや、ダイアルをまわす音、シャッター 音、フィルムドライブのモーター音などが入る。

近い。息子を殺されて泣き叫ぶ母親を撮るナクトウェイ。冷静に、静かに近づき、露出を計り、シャッタースピードを調整し(このとき、マニュアル露出 モードで撮っていることさえ分かる)、シャッターを切る。普通、人にレンズを向けるというのは、そう簡単なことではない。特に、このような状況にある相手 に、レンズの存在を受け入れてもらうことは、とても難しいと思う。しかし、ナクトウェイは撮り逃げたりするのではなく、母親をとりまく親戚連中の中にゆっくりと入り、シャッターを押す。ナクトウェイのCCDから見ると、彼女達が、ナクトウェイの存在を受け入れていることが「ちゃんと」分かる。

ナクトウェイは、自分がそうやって撮った写真が、彼女の身に起こった戦争の悲劇を世界に伝え、ひいてはそれが、世界を良い方向に前進させると信じている。だから、シャッターが切れる。そこまでの信念。


何度も致命的な負傷をし、病気にもかかっている。ニューヨークのアパート兼仕事場は、あまりにもストイックで、そこに暖かさはない。現像し、ポジをピックアップし、コメントを整理する。そして、新しいフィルムをケースに詰め、ブーツの紐を締めて、また戦場に向かう。何故、そんなことをするのか。正直 意味が分からない。しかし、僕はスクリーンを見ていて、体が震えた。普通のリュックに、普通のシャツとジーンズ。キヤノンのEOSが 2台。そして、首から提げたプレスパス。ありふれたカメラという道具を使って、ここまでのことができるのか。いや、ここまでのことをしようとするのか。

映画館を出て、ちょっとくらくらしながら歩くと、そこはいつもの恵比寿の夜の街並みだ。ナクトウェイは今、戦場の写真と同時に、世界の貧困地帯の写真も手がけている。そして、そうした写真をメディアに載せることは、年々難しくなってくるのだと言う。スポンサーは、自社の製品の広告の横に、餓えで針金のようになった子供の写真を載せたがらない。

この男が、なぜそこまでして地獄を撮り続けるのか。成功して有名な自分と、戦場の硝煙のバランスをどうとっているのか。世界の進歩を、どうして信じられるのか。なに一つわからない。ただ、自分の中に大きな石を投げ込まれた気分なのだ。

参考文献1:inferno, James Nachtwey, 2000/03, Phaidon Inc Ltd, ISBN: 0714838152
参考文献2:ちょっとピンぼけ 新版, ロバート・キャパ, 1980/01, ダヴィッド社, ISBN: 4804800727

モスの匠味バーガーは美味いのか

Photo: 匠味チーズバーガー、シリアル番号 6 2003. Tokyo, Japan, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

Photo: “匠味チーズバーガー、シリアル番号 6” 2003. Tokyo, Japan, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

デフレ時代にくさびを打ち込む、モスの匠味(たくみ)バーガー。噂は聞くが、喰った奴を見たことがない。それは、本当にうまいのか、レポートしてみよう。

まずスペックから。匠味バーガーは、フランチャイズのファーストフードとしては傍若無人の 580円、牛丼 2杯より高い。ただし、バンズ、パティ、ソースについては匠味専用仕様、調製は選任担当者が行い、提供は専用の陶器皿となる。注意点として、現在、このメ ニューは店舗限定・数量限定(多分 1日 10個)なので、なかなか買えない(らしい)。

限定・選任・専用というキーワードは、かなり僕の心の琴線に触れると言わざるおえない。では、取材班総勢 3名で食べに行ってみましょう。


ターゲット店舗の販売開始時刻は 15:00。我々は近所のラーメン屋で、くそまずい塩ラーメンを食いながら、販売開始を待つ。

15:00、突撃。なんか、レジに行列が出来ている。周りの客も皆、匠味バーガーを頼んでる。調理場に「タクチー」のコールが響く。なるほど、匠味バーガーに更にチーズをトッピングした匠味チーズバーガーもあるのか。じゃあ、それ。そして、15:06 匠味バーガー売り切れ。本当に凄い人気。我々のテーブルには、御待ちくださいの札が 3つ並んでいる。アホっぽい。

10分ぐらい待っていると出てきます。しかも、調製者のサインと日付、シリアルナンバーの入ったカードがついてくる。

結論から言うと、匠味バーガーは美味しかった。まず、ちゃんと大きい。「なんだよ、写真と違うじゃないか?」なんてことはない。大口を開けないと喰 えないので、ガブリと。とにかく、バンズがうまい。甘みを抑えてハンバーガーに合うようになっているそうで、ふっくらしていて美味しいパン屋さんの味がす る。中にはちゃんとソテーしたタマネギがたっぷり挟んであるし、ソースの粗挽きこしょうが芳ばしい。パティは肉汁がきちんと入って、普通にハンバーグとし て通用しそう。

見た目、「かなりでかい」感じで、多そうだと思ったが、むさぼり食って終了。でも、ファーストフードを食べた後の、いやな感じがまったくしない。取材班全員の意見として、「あり。ウマイ」

とっても丁寧につくられていて、普通に美味しいという感想。テイクアウトよりも、できたてを食べるのがお勧め。そんなところで、レポート終了。


さて、匠味バーガーは美味しかったし、580円(チーズは 640円)を払うのはまったく問題ないと思う。というか、次も食べたい。こういう商品が出てくるようになって、それが人気を集めているということに、いろいろ思うところもある。

安いモノ探しに消費者が疲れた、ということもあるのだろう。それにもまして、モノ中心の消費の形態が変わってきたような気がする。単なるモノと金の 交換というのではなくて(そこでは、どれだけ効率よく少ない金でモノを手にするかが鍵なわけだが)、モノを通した関係の中に心地よさを見いだす。あるい は、モノを通して実現する自分のスタイルというものに、金を使うことを心地よいと感じる。モノがあふれたこの時代にあって、一瞬、モノの値段を下げて差別 化するという流れがあったわけだけれど、それが一段落して、モノとサービスを通じて、売り手と顧客との関係の中で差別化をする方向に動きが変わってきてい ると感じる。それは、ともすればバブルの時代となんら変りがないが、もうちょっと洗練されたというか、落ち着いた賢い金の使い方みたいなものが、今回はあ るような気がする。

一方の売る側からすると、人手をかけるのは非効率で悪いこと、という少し前までの考え方から、かけるべきところに人手をかけて、その分のコストを きっちり価格に転嫁しても、それが納得のいくコストパフォーマンスであれば買ってもらえる。調製者のサインと、シリアルナンバーが入ってくる匠味バーガー の価格とその売れ方を見れば、そういうトレンドが間違いなく来ていることが分かる。(あくまでパイロットプログラムの商品だから、分かりやすいようにそう した「シンボル」が入っているのだろう)

コスト削減の大量生産・大量消費はどう考えてもつまらないけれど、匠の時代だったら、それは面白いだろうと、ちょっと希望をもってみたり。


注1:匠味バーガーの販売時間は多分店舗によって異なります。タマネギをソテーしていたり、手間がかかるので、選任の人しかつくれません。きっとその人の シフトとかに合わせられていると思われる。あと、匠味バーガーと匠味チーズバーガー合わせて 10個限定という数え方になっているみたいなので注意。
注2:実際には3日ぐらい家に帰っていない状況で、放浪の末食べているので、その体調で美味しく感じたのだからたいしたもの。