東京と近郊の記事一覧(全 59件)

僅かな日の光

Photo: 2001.
Photo: 2001. Tokyo, Japan, CONTAX RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EL-2

綺麗な紅葉ではなかった。葉には虫喰の跡が残り、枝には蔦がからんでいる。

西日の当たる、うちすてられたような場所に、木は立っていた。木は動けないから、じっとそこに生えている。もし、木が動くことが出来たなら、都会の木はみんな逃げ出す。そんな話を、聞いたことがある。


新宿御苑にたどり着いたのは、日がおちかかる夕暮れ時。この季節、紅葉を求めてここを訪れる人間は3種類居る。家族連れ、カップル、カメラマン。

残された僅かな日の光に、ありとあらゆる種類のカメラをもった人びとが、わんさか群がっている。Canon, Nikon, Minolta, CONTAX, Leica, Hasseleblad, Rolleiflex、夕日を浴びる紅葉に、無数のレンズが向けられていた。


でも、僕が見つけたこの赤茶けた木は、なんだかまるで人気がない。誰も見向きもしない。そりゃ、あんまり綺麗じゃないし、隅っこにあるし。でも、なんとなく頑張っているように見えたので、僕はこいつを撮ることにした。

葉っぱは煤けていたけれど、よく見れば新芽のようなものがあった。色だって、よく見ればすてたもんじゃないよね。

traveling

Photo: 2001. Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Knodak DYNA 400, F.S.,
Photo: 2001. Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Knodak DYNA 400, F.S.,

「疲れたなぁ」

と思って見上げると、もう秋が終わろうとしていた。業界は、やたらと不景気で、それでも忙しい場所というのはあくまで忙しい。いろんな事を、実務的に片づけ続けたここ数週間。そういうリズムの中で、いろんな事にすれ違って、でも、心は気が付かない。


山積していた諸々に、ようやく片が付き、僕は久しぶりに休みをとった。電車にのって、街を出た。

ヘッドフォンから、宇多田ヒカルの「traveling」が流れてきた。いままでと、ちょっと感じが違う曲。リズムと、流れる街の灯りは、よく合っている感じがした。

佐賀町エキジビット・スペース

Photo: 2000. Sagacho, Japan, Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D, Agfa
Photo: 2000. Sagacho, Japan, Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D, Agfa

呆然。

観客は所在なく歩き回り、床に目をやり、少し不安そうに窓辺に身を寄せる。

「佐賀町エキジビット・スペース」最後の展示は「ドキュメント佐賀町・定点観測 1983-2000」。入り口で 500円払い、今までの展示物の年表を印刷した紙を一枚受け取る。そして、ギャラリーに入る。室内が、眩しい。


種を明かせば、展示スペースには何一つ展示されていないのだった。全ての展示物が撤収され、がらんとした空間だけが広がっている。

この場所の本質が、まさにモダンアートの展示「スペース」であったことを、「展示」している。その展示を前にして、とまどい気味の観客達は、それでもなにかを持って帰ろうと、床を触ったり、柱の写真を撮ったり、窓の外を眺めたりしている。

僕はと言えば、これで 500円はちょっと高いなぁ、などと思いつつ、面食らっている観客達を順に追いながら、シャッターを切った。


美術学校の学生らしき 3人組が、なにも無い床に携帯電話を置き、Nikon のデジカメで写真を撮っていた。携帯のディスプレイが映し出す時計が、残り少ない世紀末の時間をカウントしていた。


注:現在、「佐賀町エキジビット・スペース」は閉館している。