ビルの谷間の菜の花畑

Photo: 夕日の中の菜の花 2003. Tokyo, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EB-3

Photo: "夕日の中の菜の花" 2003. Tokyo, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EB-3

浜離宮に都内最大の菜の花畑があるらしい。ということで、遅い昼飯を食べてから、出発。浜離宮ってどこだ。

築地市場駅を降りて、それっぽいおばちゃんの集団についていくと、そこは浜離宮。都立公園なので、入園料は安い。300円。


ビル街のど真ん中に、いきなり菜の花畑が広がる。ビル、菜の花畑、観光客。新宿御苑もそうだが、こういう場所って、外から見るとなんだか適当な林にしか見えないのに、中にはいろいろとんでもないことになっている。

花は、ちょうど、今日が満開だった。目が痛くなるような黄色が、ずっと先まで続いている。みんな、ちょっとだけ興奮しながら、黄色い春の小路を歩いていく。お父さんが構えるカメラの前で、記念写真におさまろうとしている子供の背丈は、菜の花より少し小さい。


やがて、太陽は傾いて空が色付き、花が淡く輝く。こんなに沢山の菜の花を見るのは、そういえば、初めてだった。

太陽がビルの谷間に沈んでしまうと、急に寒くなった。まだ、春は浅い。人々は思い思いに帰っていく。僕は脇のベンチに腰をおろして、そんな人たちと、今はすっかり色を失った菜の花畑を眺めていた。

注:浜離宮恩賜庭園の菜の花の見頃は、3月後半です。5月の今は、また別の花が咲いているでしょう。

真っ白な雨傘

Photo: 真っ白な雨傘 2003. Kamakura, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EB-3

Photo: “真っ白な雨傘” 2003. Kamakura, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EB-3

鎌倉の裏路地。石垣と土壁の小路。


突然、風に吹かれて、干されていた傘が、ふわりと落ちてきた。

カンカンの日の光を浴びて、気持ちよさそうにくるくる回る、真っ白な雨傘。埃っぽい春風に踊れ。


風が止む。音楽が止んだように、傘は地面に舞い降りた。

堀端の桜

Photo: 桜 2003. Tokyo, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX

Photo: "桜" 2003. Tokyo, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX

今年は桜を見に行こう。そう思って、あちこち見に行って、目の前が真っ白になって、うんざりした。

こんなに一生懸命桜を見たのは、生まれてはじめてかもしれない。


桜の名所。周りは、家族や、カップルや、同僚や、友達や、そんな人たちでいっぱいだ。でも、本当に見るんだったら、一人の方が良いかもしれない。堀端に揺れる桜に、ふと漂う妖しい気配はかすかで、その声を聞くには耳を澄ましていなくては。


そういえば、桜の花はほとんど匂いがしない。人の記憶は匂いに結びつくけれど、満開の桜の景色は、まるで浅い夢のように、淡い色だけを瞼に残す。

春の浅い夢だ。