若先生の住まい

Photo: 若先生の家 2006. Kagawa, Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

Photo: "若先生の家" 2006. Kagawa, Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

小豆島。

映画村の外れにある、人気のない民家のセット。


若先生の住まいという設定のせいか、家具も少なく、畳はすり切れている。粗末なちゃぶ台に大きな酒徳利と、茶碗が一つ置かれている。

砂と塩でザラザラとする板の間に座り、窓の外の海を見る。


とても貧しくて、でも、シンプルで美しい生活。それはセットであって、フィクションであるのだけれど、どこかには有ったかもしれない。

誰かが来るまで、ずっと座っていた。

旅が終わり、冬が終わる

Photo: 車窓 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

Photo: “車窓” 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

ニセコとの往復には、初めて列車を選んだ。乗り換え案内のサイトで見ると、札幌からは、ニセコライナーが便利。

ニセコライナーには、普通の通勤仕様と、より豪華な特急仕様がある。どちらも、雪国に住んでいた者には懐かしいディーゼル車。勾配に応じて、エンジンの音の調子が変わる。雪国で送電線が切れたら命に関わるから、今でもディーゼルというのも分かる気がする。(違う理由かも知れないけど)

そういえば、昔、シベリア鉄道のストーブは石炭ストーブだと聞いたことがある。暖房が故障したら、それこそ生きていられない世界では、石炭の確実さが求められるのだとか。(現在はどうなんだろう)


北海道の列車はとても暖かい。分厚いガラスが、車内とマイナス十数度の世界を隔てて、足もとまで暖かい。

帰りの電車、ビールを沢山と、ニッカのウイスキーと、チーズと、お菓子を沢山持ち込んで、乗り込んだ。車両はガラガラで、椅子をまわしてくつろいでも、誰にも迷惑はかからない。たっぷりニセコで滑って、頭の中が少しクリアになった。車窓からの景色は、雪山から徐々に町並みに替わり、すれ違う列車には 通勤客が乗るようになる。

旅が終わり、冬が終わる。

冬の密度

Photo: 窓と雪 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

Photo: “窓と雪” 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

東京は暖かい日が何日か続き、街の匂いに春の成分が混じる季節になったが、ニセコは完全に冬だった。


楽天トラベルで安易に選んだ(焼蟹と白老牛の夕食がキーワード)宿だったが、比羅夫あたりの雑然としたペンション街から遠く離れ、昆布温泉(なんて良い名前!)の近くにぽつんと、良い感じに建っていた。

きちんと整理されたロビーは良い印象で、僕が懸念した「でかい木の切り株」や「ビニールのかかった剥製」、あるいは、「お客のポラロイド写真を貼ったコルクボード」の類は無かった。というか、ごくごく、趣味の良いホテルだったのだ。


建物は、流石北海道できちんと断熱されていて、下手に東京のオフィスなどよりも、よほど暖かい。

部屋から眺める林は、数分ごとに大きく表情を変える。時折突風が吹くと、枝の上の雪が、白銀の煙のように舞い上がり、何も見えなくなる。そして、雲が晴れ、一瞬だけ青空が覗く。

その日、落ちた雪も、夜のうちにまた、どっさり枝の上に積る。それが繰り返され、だんだんに量が減っていき、ついに春が来るのだろうと、知ってはいるが、それはまだ遠い先のことに思えた。


「坂一つ上がっただけで、天気が変わりますからね」

確かに。酒でも買いに行くかと、宿から 5分ぐらいの酒屋(その宿の近くにある、唯一の商店)に、のんきに出かけたら、遭難しそうになった。北海道は、冬の密度が違う。