日本国内の記事一覧(全 217件)

おるね

Photo: "Spotted."
Photo: “Spotted.” 2025. Tokyo, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Planar T* 2/50 ZM

芒の隙間から覗くと、おるね。

オキちゃん 2023

Photo: “Dolphin Show.”
Photo: “Dolphin Show.” 2023. Okinawa, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

「美ら海水族館は行った事ある?」

「いや、ないですね、初めて」

それはそうだ。21世紀に入って、沖縄には出張でしか来ていないのだから、水族館には行けない。行けなくも無いが、行った事は無いのだ。純粋な旅行として初めて沖縄に来て、地元民のアドバイスに従って近くのコンビニで割引チケットを買い(これはお得な情報だった)、初めて美ら海水族館のゲートを潜る。初めての筈だ。初めてなのか?

来たことは無いはず、しかし、来たことがあるような気がする。なんだろう?この既視感と、何にも見覚えの無い感じ。


イルカショーを宣伝する立て看板の「オキちゃん」という単語を目にしたときに、突然いろいろなものがつながる。僕は、オキちゃんを知っている。オキちゃんショーを見たことがある。しかし、この神殿のようなテーマパーク然とした美ら海水族館の建物も、舞浜のあのリゾート施設のようなエントランスも、何もかもがまったく記憶にない。どういう事だ?

このオキちゃんは、記憶にあるオキちゃんなのか?しかし、あのオキちゃんに僕が会ったのは、もう25年も前の話ではないか。イルカはそんなに長生きするのか?

実際、オキちゃんは25年前に見たオキちゃんだった。僕は別の世界線を生きていたわけではなく、オキちゃんは日本で飼育されている中では最長寿のイルカとして、いまだ元気なのだった。そして美ら海水族館は、国営沖縄記念公園(通称:海洋公園)の中の一施設。どうりで、見覚えがないが、来たことはあるわけだ。1995年には、既にそこに海洋公園があり、オキちゃんが居て、その後2002年に美ら海水族館が建設されるのだ。


1995年、僕は校外実習で沖縄に行き、ギチギチのスケジュールに嫌気が差して、息抜きとして皆で海洋公園に行った。そして、若かりしオキちゃんのショーを見た。オキちゃんは、その時からスターとして高くジャンプしていた。知らないはずなのに、知っている。見覚えの無い場所なのに、知っているイルカがいる。そういう午後。

用賀、何のイメージも無かった街

Photo: “Octopus! Octopus! Octopus!”
Photo: “Octopus! Octopus! Octopus!” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

用賀、何のイメージも無い街。駅前のスーパーは、とにかく今日は蒸し蛸推しだ。小綺麗というのがぴったりな街並みの、人工感、富裕感、そんなものに軽く圧倒されながら、LEXUS用賀の横を通って砧公園に向かった。GPTが提示した目的地は、公園の一角にある世田谷美術館。今日は写真展が開かれている。

写真家 野町和嘉の名前を僕は知らなかったが、多分見覚えのある写真はあった。NHKのドキュメンタリーで見たのかもしれない。エチオピアのキリスト教会をテーマにしたパートの、異世界感、古代感。ミュージアムショップで、光沢印刷が美しい80年代当時のエチオピアがテーマの絶版本を買うことができた。写真家の家に在庫されていたのだという。もう、この先どんどん限られて行くであろう、紙の写真集を買う。(集めている)

80年代に世界を巡ることができたのは、とんでもない幸運。今は、それはただのYouTuberレベルの話になってしまう。今時、ドキュメンタリーなんてものは流行らない。それがとうに、フィクションであることは分かってしまっている。映画の論法を使えばギリギリ存在できるか?というぐらいの所ではないか。


世界をめぐって写真を撮る、そういえば自分はもともとそんなことがしたかったんだな、というのを思い出した。だが、今の自分に何ができるだろうか。家を空けて長期に旅にでる。世界の写真を撮る?2025年に?それはいささか、需要も供給もなさそうだ。あるいは旅のエッセイ?そんなものを最近自分は読んだだろうか。

写真家が、自分の撮影してきた時代は、世界がフラットになる前の最後の時代だと書いていたことは、全くその通りなのだろう。今から、何の意味を背負って世界に出て行くことができるのか、その必要があるのか。もっとも、必要なんてものはどうでもいいのだと僕は知っている。自分が十分にやりたいことをやっているのか、それだけの話。