夏休みと人生はだいたい似ていると思った

Photo: "Beautiful parasols in Bondi beach."

Photo: “Beautiful parasols in Bondi beach.” 2016 Sidney, Australia, Richo GR.

ふと、人生は夏休みたいだな、と思った。そして、もっと早くその事に気がついていたら良かったのに、誰かがもっと早くにそう教えてくれたら良かったのに、とも思った。夏休みは、人生の初期の段階で体験する。だから、それがこれからの人生の相似形であることに早くから気がついていたら、もっと素直にいろんな事を理解できた気がする。


夏休みと人生は似ている。夏休みにはリミットがある。人生のリミットは誰にも分からないけれど、200年生きる人は居ないから、やはり最初から終わりが有る。そして、常にカウントダウンは刻まれ、それが進むにつれて、焦りが増えてくる。夏休み最後の一週間は、けっこう嫌な気分だ。もう楽しいことは先にあまりない。やり残した宿題だけが残っているかもしれない。人生も似ている。

夏休みと人生は似ている。いろんな過ごし方ができるし、毎日はなんとなくくり返されていく。その長いようで短い時間は、やったことだけが積み重なる。1日目に立っていた場所と、最後の日に立っている場所は、やっぱり違っている。沢山の事をする人も、何もしない人も居る。周りがやっているような事をなぞっていたら、なんとなく休みが終わる。そんな夏休みもあるだろう。人生も似ている。

夏休みと人生は似ている。楽しい夏休みもあれば、孤独な夏休みもある。周りの人、家庭の状況、いろんな初期条件や外部要因がそれを左右する。もちろん、自分がどう過ごすかでも、変わってくる。あるいは、意外と自分の手の及ばないところで、物事が流れていってしまう感覚。人生も似ている。

夏休みは何回かやってくる。それに比べて人生は1回で終わり。でも、その分長めの時間が用意されている。

ロシア軍用犬とカワイイ

Photo: "A dog."

Photo: “A dog.” 2017. Vladivostok, Russia, Apple iPhone 6S.

ボンバルディアのタラップを降りると、むわっとした暑さを感じた。ウラジオストクに降り立って、一番最初に感じたのは、暑い、という事だった。滑走路の端に目を移すと、上空から柔らかな牧草のようにも見えた緑の絨毯は、巨大なセイタカアワダチソウのような謎植物だった。

そして、次に目に入ったのは、濃紺の制服に身を包んだ女性ドッグ・ハンドラーと、側らに座る山羊みたいな大きさのジャーマン・シェパード・ドッグつまり K9。かなり離れたところからこちらを注視しているが、命令があれば時速30km/hでアプローチされ、秒殺される確信。これが、真のおそロシアか。


基本、マッチョに溢れたこの国の実際は、最初のシェパードで抱いた印象である「おそロシア」の通りだった。テストステロン溢れるヒグマみたいなロシア人。そんなステレオタイプは実際、その通りだった。この国には、「カワイイ」みたいな概念は多分無い。ひたすら実用的で無骨。もちろん、街角にカワイイ要素なんて何にも無いのだ。

宿の隣の24時間スーパーが便利で、別に用は無くても毎日通っていた。ある夜、入り口に繋がれた犬。飼い主を待っているけれど、僕に尻尾を振ってくれた。かのK9と同じ種とは思えない、初めて見つけた「カワイイ」。お前に会えて良かったよ。

その店は、なかなか入りにくい

Photo: “Set meal of grilled yellowtail.”

Photo: “Set meal of grilled yellowtail.” 2017. Tokyo, Apple iPhone 6S.

その店は、一見するとなかなか入りにくい。実は、その近くを歩きながら、何年も気が付かなかった。住居と一緒になった、割烹のような店構え。昼時、店の前に掲げられる品書きは、少し値が張る。

「いらっしゃいませ。」

和食の世界では名の知れた名店だが、二代目の店主の物腰は柔らかく、少しも威張ったところがない。

「今日は、焼き魚は何ですか?」
と聞くと、
「竹が鮭、松が太刀魚です」
と答えた。ちょっと迷うが、太刀魚にした。

焼き台にはまだ炭は入っていない。ガス台でカンカンに暖められた炭が置かれて、大ぶりの太刀魚が串に打たれて焼き始められた。12時をちょっと回った頃だが、連休の谷間で今日は人が少ない。先客は3人1組だけ。皆、名物のどんぶりを食べているようだ。


ほうじ茶を啜りながら、たっぷり10分ほど待つと、魚が串から外され熱い飯がよそられる。出てくる定食は、見た目が凄く豪華とか、そういう事は無い。供される小鉢も、汁も、もう渋すぎてかの小説家の「昔の味」に出てきても不思議では無い。

小鉢のたけのこの煮物、えぐみの少し残った感じ。蕪の漬物の、少しひねた感じ。汁は粗から出た出汁がひどくうまい。太刀魚に添えられた蕗味噌は、普通に考えたら塩辛そうだが、ぎりぎりで塩が収まっている。

焼きあがった太刀魚は、鱧のようにふっくらとしている。腹身と背中の味の違いを噛みしめる。そうして、艶っとしたご飯を頬張る。


普段はそんなことは思わないが、この店ばかりは、美味しさが分からないなら食べなくていいよ、と思ってしまう。あるいは、そういう美味しさが分からなかったから、何年も自分の視界に入らなかったのかもしれない。