海兵隊 vs. 相撲部

CNN の国際版を、見るともなく見ていた。

ふと、さっき日本のニュース番組で見たのと同じニュースが、全く異なる内容で放送されているのに気づき、驚いた。


沖縄の米海兵隊員と、どっかの大学の相撲部が、交流試合をした。

日本国内で放送されたニュースでは、相撲部員が海兵隊員を投げ飛ばす場面が、次々と映し出された。CNN の国際版では、まったく逆で、海兵隊員が相撲部員を投げ飛ばす場面が、次々と映し出された。

日本のニュースを見た日本人は、「ああ、やはりガイジンの相撲ごっこぐらいでは、力士は負けないよな」と思うし、CNNを見たガイジンは「ああ、やはりスモウレスラーも海兵にはかなわないのだな」と思っただろう。


映像自体は、なにも加工されていなくても、編集次第でニュースが伝える意味は、全く反対になる。事実に近いのは、おそらく、「ほとんどの対戦では相撲部が勝利し、海兵が弱そうな部員を選んだときは勝った」だと思われる。

面白いことに、日本のニュースでは相撲部が負けたショットもあったが、CNN では海兵が負けるショットは1つもなかった。文化の違いだろう。


なんていい加減な話だろうか。でも、やはりそんなものだ。

真実を理解するというのは、とても手間がかかるし、疲れるし、面白くない。CNN のニュースも、日本のニュースも面白かった。そして、たぶん、大半の人は面白い方を選ぶに違いない。

HANABI

北野武監督の「HANABI」を見た。さっぱりしていて、いい映画だった。

失っていくことを描いた映画だったけれど、綺麗だった。


(内容をばらされたくない人は、この下は読まないように。ただし、筋が分かっても、別にどうという映画ではないが。)

不治の病におかされた妻。主人公で、元刑事の男は、現行強盗をして奪った金で、妻と一緒に旅に出る。

二人の会話はほとんど無いが、必要としあい、信頼しあっている空気がちゃんと伝わってくる。男はタフだけれど、妻が死んだら生きてはいられない、ということが何となく分かってしまう。


映画の終盤、男は、車のサイドミラーに、追っ手であるかつての自分の部下の姿を認める。

懐の拳銃に 2発、弾丸を込めて男は歩み寄る。
「もう少し、待ってくれ」

浜辺で凧を揚げる少女を眺めながら、男と妻は寄り添う。妻は二言、「ありがとう、、、ごめんね。」と言った。


カメラは海を、映している。銃声は 2発。男と妻で 2人、追っ手の刑事も 2人。しかし、物語の結末はあえて映す必要もないのだろう。

この終わり方は、不思議と、悲しくない。

息苦しさ

電車の中で、ふと息苦しくなった。

焦りとも、不安とも、苛立ちとも付かない気分が、気分と呼ぶにはあまりにもはっきりと僕を襲った。

行き場のない感情は、春の嵐のように突然、来た。


目の前のオヤジは、僕に覆い被さらんばかりの勢いで、立ったまま寝ている。僕は鞄とコートを抱えて、車両のはじっこの窮屈なシートに身を沈め、汚れた窓から隣の車両を眺めていた。

車内の空気はよどんでいて、日中の暖かさがイヤな感じのぬるさになって残っていた。

疲労と、倦怠を引きずった深夜の電車は、そんな感じだった。でも、それがあの息苦しさの原因だったとは思えない。


僕は、季節にとても左右される。

電車の中で感じた息苦しさは、閉じこめられた冬の季節が終わって、春が来たことに、僕の体が反応したせいかもしれない。