向島百花園、再び

Photo: "A pond."
Photo: “A pond.” 2025. Tokyo, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM

「虫が多いから、最近はあまり来てないのよ」

ベンチに座る僕の前を、そんな会話をしながら家族連れが通り過ぎていく。そうだろうか。夏の盛りに比べれば、格段に蚊は居ないし、得体の知れない羽音もしない。鳥の声が秋の空に、鋭く響いている。

今の季節は、雪虫のような、ふわふわとした小さな羽虫が、庭園中の大気を漂っている。光にその羽が雪の結晶のように反射して、命が満ちている気がする。

多分、その中を歩くだけで、いくらかを潰してしまったりするのだろう。命の楽園というわけではない、競争と、淘汰と、運不運、そんな感じだ。


向島百花園は、九庭園の中では毛色が変わっていて、大名やら財閥やらが作った他のThe様式美みたいな庭ではない。多様な四季の植物が、細かく、様々に植わっていて、自然の諸相がより明確に見て取れる。どの柵の内側にも、いろいろな層の植生と、虫と、そういうものが満ちている。命の密度は、九庭園の中でも、ここはダントツだと思う。

ベンチに座って、亀戸で買ったパサパサしたカツサンドを食べている。頭の上を風が渡ると、葉が落ちる音がする。ここはそれなりに都心だから、全くもって静かな場所ではない。鳥や葉の音にかぶせて、直ぐ横を走る明治通りから、街の音が聞こえてくる。が、ここではあまり不愉快には思われないな。

ご感想をお寄せください