奥多摩

Photo: “Swallows."
Photo: “Swallows.” 2025. Tokyo, Japan, Google Pixel9.

GPTの指示に従って奥多摩の駅に降りたときから、田舎の駅にはあるまじき緊迫感というか、観光地、いや深夜のドンキのような緊迫感を感じたのだ。

そのカンは当たっていて、奥多摩の清流は、ガラの悪いBBQ客、母国のノリで爆音をかける東南アジア系、遊泳禁止の巨岩から飛び込む白人、もちろん日本人の「輩」もたくさん居たけれど、そこと一線を画するインバウンドのマナーは衝撃だった。

簡易トイレが溢れたような、嫌な臭いの水で泥濘む渓谷沿いの径を渡った時点で、もう限界を感じた。嫌なにおい、嫌な空気、ここには一刻も居たくない。


インバウンドが入って来れない近隣の神社で巻き返しを図る。GPTにプランBを求めた。混雑状況は、ほかの駅ならまだましとの事。であれば、大多摩ウォーキングトレイルというものに行ってみよう。本来、JR青梅線・古里駅から奥多摩駅までのコースのようだが、鳩ノ巣まで電車で移動し古里駅に向かってトレイルを逆をたどる。

「平坦な道で、気持ちの良い川沿いのトレッキングコース」だとGPTは言っていた。後から考えれば、登山に慣れた方々のBlogか何かをモデルに取り込んでいるのだろう。ド素人の僕からすると、「登山」みたいな道である。ツキノワグマ注意の看板が出る林道を上り下りし、木の根を分ける。キーワードだけで進んできたので、トレイルの全体像は分からない。道端に時折掲げられた道標だけがヒントになっている。

道中、道を間違えたのでは?という疑念が最高潮に達するぐらいで、「大多摩ウォーキングトレイル」の次の道標が現れる、絶妙なゲームバランス。ツキノワグマが出ます、と書いてある林道では休憩する気になれなかったが、途中に設けられた無料の休憩場所に救われる。

朝、家の近くのセブンで買ってきた紀州梅のおにぎりが、これ以上なく美味く感じた。デザートのココアクッキーを用意しておいたのも、自分を褒めたい。この暑さでも、クッキーはびくともしない。塩分と糖分。食べ終わって道を下っていると、さっきより力が湧いてくるのが分かる。モノを食べるというのは凄いこと。


鳩ノ巣駅から古里駅までは、地図の記載で3.4km、林道なので歩く感覚はもっと遠い。何組かのトレッキング客とすれ違い(僕が逆行しているのだ)、川を渡り、市街地に出る。青梅線の線路が、道を併走するようになると、古里駅にたどり着いた。

スッカスカの時刻表によれば、30分の待ち。無人駅、トイレもないので(実は反対側にあった)誰もいないホームで汗で重くなったTシャツを着替えた。レールの間には雑草が背高く生える。若い燕が4羽ばかり架線の間を行き来している。ホームの両端には色と水分を失った、背の高い雑草が生え、遠くの山並みの緑は深い。

Photo: “View from the High Deck, Musashino"
Photo: “View from the High Deck, Musashino” 2025. Tokyo, Japan, Google Pixel9.

人の気配がして、甲殻機動隊のTシャツを着た50歳がらみの男に話しかけられる。「いや、もう5分も待てば電車は来ますよ」と答える。暑くてかなわない。32度とGarminは表示しているが、湿度が高く体感気温はもっと高い。

青梅からはグリーン車に乗った。初見では分からないモバイルSUICAを使ってグリーン券を買う方法は、GTPに聞いた。ハイデッキの2階からは、見慣れた中央線がずいぶん違って見える。1時間以上乗って千円なのだから、案外お買い得かもしれない。車内販売のお茶は出ないけれど車窓が移り変わって飽きないし、とても空いている。

沿線に住む古い知り合いに会いに行ってもいいなと思ったりした。電車は国分寺を過ぎた。

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