熱海の街を歩いて、干物屋をひやかすのは面白い。
店の作りはどれもよく似ていて、軒先には人寄せを兼ねた干し台があり、奥にこぢんまりとした入れ込みのような休憩所がつくってある。練炭を入れた七輪で、干物を炙って食べる趣向だ。
干物の他にも、蛸の塩辛や、鯑の山葵漬、若布のふりかけなんかが並んでいるが、よくよく見ると、これって箱根でも売ってたよな、というのもあったりする。もっとも、そういうのをあえて買う愉しみ、みたいなものは確かにある。
それにしても、干物というのは、色とりどり魚が盛られていて、しかも、もうあとは炙って食べるばかりという訳で、つい、あれもこれも欲しくなる。特にこの棚。梭子魚のピンと張った尻尾と、飴色の身は、とても美しくて、日本の食べ物の綺麗さに息を飲む。温泉町の土産物屋で、こんなものが買えるのだ。
結局僕は、ここでは何も買わないで出た。かまぼこか何かを、買っていたのも居たな。