神戸旅の記録 2

(今回の今日の一言は、旅先から更新しています。そのため、誤字脱字、意味不明な部分があるかもしれませんが、「ライブ」ということで、勘弁してください)

神戸、旅の記録 その2

8時半に起きた。昨日、疲れていたせいで早々に寝てしまい、おかげで日ごろ破壊されていた生活のリズムが、一気に正常に戻ってしまった。

とりあえず、荷物をまとめて出発する。JR三宮駅から、西ノ宮駅を目指す。


西ノ宮では、予想以上に閑散とした駅前に面食らったが、まずは朝食を食べる場所を探すことからはじめた。しかし、駅前にもかかわらず、店は軒並み準 備中。ミスタードーナッツは開いていたが、朝からドーナツは食えない。二人とも、食生活のスタイルは和風だ。道をはさんで、「蕎麦屋」を発見。大喜びで、 暖簾(のれん)をくぐった(はずだったが、違った)ものの、店内はおもいっきり準備中だった。そういえば、外には暖簾がでていないではないか。

意地でもファーストフードはいやだったので、さらに歩いてモーニングサービスの看板を掲げる喫茶店に入った。

注文の時に、

ウェイトレス「なんにいたしましょうか」
五月氏「オムレツセット」
僕「を2つ」

と言ったら何故か大変に受けた。これは、関西ではギャグとして通用してしまうものなのだろうか。あるいは、たいへんに恥ずかしい行為なのだろうか。いずれにせよ、僕らは、関西人を笑わせたことに深い満足感を覚えた。

さて、その喫茶店で分かったことは、どうやらJRの西ノ宮は阪神西ノ宮よりも、ずっと先にあるらしいということ。僕らは、いきなり出発地点よりも遠くに来てしまったのだ。


道路をまっすぐ行って、3つめの信号を左へ、という喫茶店のおばちゃんの指示はもちろん間違っており、もっと先を曲がると、ようやく出発地点である阪神西ノ宮駅にたどりついた。この駅の目の前にある、西ノ宮駅前商店街。ここから、旅は始まるのだ。

商店街の一角は、まだ建物が建たない状態で、放置されている。ただ、そういう目で見なければ、ここがあの震災の中心地であったことは、分からない。 そこに漂っている雰囲気は、紛れも無くほかの何千という寂れ行く地方の商店街のそれである。しかし、僕はこの商店街の様子を、何度となくテレビで見た気が する。テレビは、そこだけを切り取る。文章も同じだが。

本のルートにしたがって、西ノ宮商店街から、西ノ宮神社(恵比寿神社)を目指す。本の中で、ことごとく壊れていると書かれていた入り口の灯篭は、今 は修繕されている。真新しい石が、壊れたとおぼしき場所にはめ込まれている。まっさらに建て直されてしまった、近代的な建物や道路に比べて、ここには震災 というものが、歴史の要素として残っている。

西ノ宮神社の境内は、とても広い。参拝に来た家族連れが、ちらほらと歩いている。そこには、とても幸せそうな日曜日の光景があった。境内の池には、 亀がのんびり泳いでいる。(のんびりというのは、人間の主観に過ぎないかもしれないが)池の中に網をいれて、老人とその孫が、なにかを掬っている。池は藤 棚に囲まれ、静寂がある。何故か、セミが鳴いていない。その様子を、僕はカメラに収めた。真新しいメルセデスのEクラスが、御祓いを受けるために、境内に 停まっている。


神戸は、背後に山があって、前が海。だから、あまり迷うような場所ではない。ただひたすら、山を右手に見ながら進んでいけば、いつかは僕らの目的で ある三宮にたどり着くのだ。道の脇のコートでシニアとおぼしき人たちがテニスをしている。その先を曲がると、やはり、大きなテニスコートがあって、全日本 の大学選手権が行われていた。この街では、テニスをしている光景をよく見る。観衆の静寂と、サービスの前に玉をつく、ポンポンという音が懐かしく感じられ た。しかし、さすがに大学選手権ともなると、線審(テニスのコートの後ろで、打球が入っているかどうか判定する人)が6人ちゃんとつく。一度でいいから、 そういう本格的な試合をしてみたい気がする。きっと、緊張してしまって、試合どころではないのだろうが。

コートを抜けると、今回の旅行で初めて海に出た。右手の芦屋の方向に、本の中に出てくるコンテナを積み上げたような、いささか不吉なマンションが見 えた。少しだけ海のにおいがした。ここは、おそらくは埋立地の海岸なのだろう。なんとなく、海の感じが薄い。海岸では、こちらではあまり見かけなかった、 壊れ気味の若者が、焚き火を囲んでいた。沖合いでは、ヨット部が練習中らしく、拡声器が「ラインを崩すな」とかそういうことをがなりたてている。僕には、 いったいどのヨットががなられているのかは分からなかった。

今日の天気は、雲の多い晴れ。ちょうどこの時は、水平線の向こうまで雲がおりかさなっていた。なんとなく霞んだ景色は、海のにおいがしない目前の海とともに、現実感がなかった。


芦屋を目指して歩く。今日は日曜日。どこの街でも変わらない、日曜日。この街に降り立って約20時間して、ようやく空気が体になじんできた。

途中で何本も川を渡る。夙川にさしかかる。家族連れが、魚を掬っている。コンクリートで真四角に造成された人工的な川。コンクリートで固められた川 床に、砂が入れてある。危ない深みなど無い、高度にソフィスティケートされた川。そんな景色も、別に不愉快ではなかったが、なんとなく、昔から映画で取り 上げられていた、世紀末の光景のような気がした。

川べりを海に向かって歩いてゆくと、さらに大きな川に行き当たった。少しだけ、船が見えた。


芦屋に入る。とにかく銀行の巨大な寮がいたるところにある。芦屋の印象はそんな感じだった。一般の人の大きな家、というのは思ったほどないような気 がした。芦屋は、思ったほど近寄りがたい雰囲気の街ではない。あるいは、僕らが山の手のほうではなくて、海沿いを歩いていたせいかもしれない。ここらへん にあるという、村上の母校にはついにたどり着けない。見つけようとして、特にがんばって探したわけではないのだが、せっかく歩いてここまで来ているのだか ら、ぽっと見つかったってよいのではないか、そんな勝手な気分になる。


そろそろ人恋しくなった、と五月氏が言うので、電車の走っている方に、少しだけ進路をかえる。僕らは、阪神電車と平行に歩きながら、目的地を目指しているので、位置を確認するついでに線路の方に歩いた。

驚くべきことに、さんざん歩いたにもかかわらず、駅の掲示板を見る限り、僕らが今、立っている駅は目的地にほど遠い。まだ、三分の一しか歩いていないのだ。

僕「ホテルに帰って、シャワー浴びたい」
五月氏「言っちまったな、それを」

空模様は、雲に太陽が勝った状態になっている。じりじりと、日差しにやかれる。この旅自体、目的を達成しても特に得られるものはなにもない。なら ば、せいぜい日焼けぐらいはしておきたいので、太陽は大歓迎だ。しかし、限度を超えて暑いのはこまる。ここらへんで、何故か風もぱったりとやんで、厳しさ が増した。

駅前にファミレスか、喫茶店があったら、即休憩だ、と思っているのだが、そんなものはない。とにかく、住宅地をぐるぐる歩くと体力を消耗するので、 国道に出てまっすぐ目的地を目指すことにする。村上の本には、ここらへんからの記述がほとんどない。もはや、歩いて三宮に到着することだけが目標だ。


国道43号線沿いをえんえんを歩く。しかし、ファミレスの一軒すらもないという状態。本にあった、「この街はそういう場所ではない」という意味がよ く分かる。もはや、出発した時の勢いは微塵もない。時たま、カーディーラーとガソリンスタンド、それにローソンがあるぐらいだ。シェル石油の看板が、貝料 理の店の看板だったらどんなにいいことか。

しかし、ついに僕らは寿司屋を発見した。たぶん、ここを逃すとあとは何もないだろうという予想(それは当たった)もあって、迷わず入った。

握りの定食を注文する。本日、初めてのまともな食事。

内容は、握りが6かんに、手巻き寿司が2つ。特に、イカと蟹子の手巻きは美味かった。それに、鰤の赤出汁と、冷奴を若いにんにくの芽であえた小鉢がつく。全体的に、快い気配りのもとに調製されているのが分かる。美味い。

いささか疲れ気味のウェイトレス(仲居さん?)につり銭を間違われたものの、もはやどうでもよくてほっておいた。味はよかったし、値段も手ごろであった。


涼しい場所で休んだせいか、あるいは食事と一緒に飲んだ生ビールで酔っ払っているだけなのか、いまいち分からなかったが、とにかく、かくだんに体力が回復したような気がした。日差しは、完全に回復している。

ここから先も、やはり村上氏の本に特に記述がない。もっとも効率のよいルートを行くことにして、国道沿いの道を歩きつづけることにした。疲労感がど んどん増してくる。途中のコンビニと自販機で水分を補給しながら、ひたすら歩いた。もはや、目的地につくことだけが、旅の終わりを表していた。

ところどころで気まぐれに写真を撮る。灘にさしかかる。灘は、関西の酒造メーカーが集まる場所だ。酒蔵が多い。菊正宗の本社工場があった。子供のこ ろから、ラジオで聞いていた「やぁーぱりぃー、俺はぁーぁぁあ、菊正宗ぇーー」というフレーズが思い起こされる。一年ぐらい前から、僕は日本酒が飲めるよ うになったのだ。


道は、終わらない。国道の道路標識が三宮まで9kmであることを告げ、6kmであることを告げ、そしてついに500mであることを告げた。この間、 僕らはコンビニでときおりお茶を買いながら、ひたすら歩いた。別に、なにを考えるわけでもなく、とぼとぼ歩いた。旅の終わりが近づいて、いよいよこの旅に なんの意味もないことが分かってきたが、それはそれでいいのだ。

西ノ宮を出て、5時間半後の午後4時過ぎ、ようやくホテルにたどり着いた。五月氏は速攻で風呂に入ってしまったが、僕は今日の出来事が頭のなかか ら、抜けてしまわないうちにThinkPadに向かうことにした。書いていて気がついたのは、ほんの数時間前の出来事が、どんどんあやふやになっているこ と。出来事を一つ一つ辿っていかないと、文章にできないのだ。いままで暮らしてきた時間の大半を、僕は忘れてしまっているに違いない。そうして失われてし まった、もしかしたら大切だったかもしれない出来事を思うと、少し悲しくなった。


さて、非常に驚いたのは、このホテル各部屋に専用のモジュラージャックが用意され、インターネットへの接続が無料になっていること。ある内線番号を 使って、ダイアルアップ接続をかけるような方式になっている。確かに、ライティングデスクにモジュラージャックのポートがあることが、昨日から気になって はいた。しかし、無料接続のことには、昨日は気がつかずに、苦労してAT&Tに外線経由で接続していたのだが、、。少しだけ、いるかホテルみたい な気分を感じて、僕らは若干盛り上がった。


夕食は、昨日のステーキに懲りて、居酒屋で済ませることにした。昨日、神戸在住の友人のアドバイスで東急ハンズ周辺がいいらしい、ということは聞い ていたので、その周辺を中心に歩き回る。僕は「不味い店」「不味い料理」を無意識に選んでしまう傾向があるので、店の選定は五月氏に任せることにする。

線路沿いを歩き回っていると、I`tetu(いってつ)という店を見つけた。五月氏の判断を仰いだところ、「まあ、入り口がきれいだから、いいんじゃない」というお言葉をいただいてので、この店に決めた。

店内は、ゆったりとしたつくりで、せせこましい雰囲気が無く、よい感じだ。メニューの内容は、いわゆる居酒屋とそうは変わらない。しかし、カマン ベールチーズを頼んでみたら、パン粉で揚げた上に苺ジャムをつけた状態で出てきたのには驚いた。言葉で書くほど、不味くは無い。むしろ、こういう食べ方も あるんだな、と納得できるレベルではあった。

五月氏が、「最近、飲んでて嫌なのは、たまには男同士で飲むのもいいな」と言う奴だと言っていた。僕は、「自分と同じようなつまらなさがあるから、おまえと飲むのはいい」と答えた。神戸に来てはじめて、ゆっくりした時間が流れていた。

今日はここまで。

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