煤けた壁と、台湾総選挙

Photo: "Far east mozaic."

Photo: “Far east mozaic.” 1995. Haebaru, Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

先々週、奇しくも、というか確信犯的に友人のうち2名が別々に台湾に行っていた。一人は人生の終の棲家を探しに、一人は、、なんだ趣味かな。街をほっつき歩きながら送られてくる豆花とか、共産党の旗とか、いかげそ揚げとか、そういうものが互いに交わるでも無く、同じLINEチャットに勝手に投稿されていく。

ちょうど同じ日に新しく来たApple TV 4Kで、僕は東京から普通に台湾のニュース番組のライブを見ることができた。開票速報から、蔡英文の外国プレス向け勝利宣言まで。後世の歴史は、今のアジアの情勢をどう描くだろうか。もちろん、その時に歴史を描いているのは、その時代の勝者だろうが。


初めて台湾に行ったときは、現地のコーディネータには「ホテルの部屋には盗聴器があるかもしません」と言われて、大いにびびった。今考えれば、たかが学生の研究旅行に盗聴も無いと思うが、国民党一党独裁であった当時の台湾では、まだそんな警告にも真実味が感じられたのだ。

今、台湾でそういう緊張を感じる事は無い。すっかり変わった台北の世界標準な都市の風景、平和な夜市の賑わい。建物の外壁がなんだか煤けている事だけは、変わらないけれど。

故郷に還った店

Photo: “Lunch plate.”

Photo: “Lunch plate.” 2019. Okinawa, Japan, Apple iPhone XS max.

その店は、もともと下北沢にあった。沖縄料理の店だ。

大学時代に、いろんな事情で沖縄の歴史とか、そういうものをいささか勉強したのだけれど、日常的に沖縄出身の人と話すようになったのは、会社に入ってからだ。僕が最初に配属されて、最初に与えられたパーティションの斜め後ろが、沖縄出身のMさんだった。

僕よりも、多分10歳ぐらい上だったように思うが、彼について飯を食いに行くと、いつもなんだかちょっと変わった所に連れて行かれた。新宿西口の喫茶店ハイチのドライカレーとか、豚珍館のメンチカツだとか、なんというか、学生が晩飯に食いに行きそうな所だ。


そんな中で、唯一飲み屋っぽい所に連れて行かれたのが、下北沢のその店だった。沖縄出身のスタッフが切り盛りする、地元の料理を出す店だった、と思う。実のところ、細長い店のカウンターを、ボンヤリと覚えているだけで、あまり記憶が無いのだ。その店が出す沖縄料理は、本土向けにアレンジされたものではなくて、ちゃんとした沖縄料理が出てくるのだ、とMさんが力説していた事だけ覚えている。だいたいが、何かを力説するようなタイプでは無いのだが。

数年前、店が閉まるという話を聞いた。故郷、沖縄に帰るのだという。僕は再びその店に行くことは無く、しかし、店の名前だけは覚えていた。ウチナーグチの、ちょっと変わった響きだったせいだろう。


それから数年、幾つかの偶然が重なり、首里の込み入った裏路地を歩いて、沖縄に帰ったその店を訪れた。店を案内してくれたのは、やはり10年ほど前に故郷に帰ったMさんだ。店の人の顔を、僕はもちろん覚えていない。Mさんは、意外ときちんと店の人と連絡を取り合っていたのだろう。今でも常連として親しくしているようで、出張の合間を縫っての訪問に合わせて、店では豪華なランチを特別に用意してくれた。

なぜ、そんなに長く続くのか、よく分からないままに続く縁がある。Mさんとの縁も、そんなものの一つだ。多分、一度だって一緒にまともに仕事をしたことは無いのだ。それでも、すっかり白髪頭になったMさんと、今年もこんな風に食卓を囲んでいる。嫌いなものが、似ているかもしれない。物事を斜めに見る感じが、似ているのかもしれない。

お膳に並んだのは、どれも沖縄の家庭を代表する料理。自家製とおぼしきジーマミー豆腐も、タームの揚げ物も、ハッとするほど味の調子が高い。仕事の年期が、違う。ゆっくり、夜に来てこの味をまた確かめたいな、と思う。下手な海外よりも来にくい場所ではあり、そして、込み入った偶然が無ければ決して訪れることは無かった場所だ。そういう事が、存外貴重なものなんだ、という事に最近思い至るようになった。

謎の店

Photo: “ORDNANCE OKINAWA”

Photo: “ORDNANCE OKINAWA” 2019. Okinawa, Japan, Apple iPhone XS max.

仕事の途中で、昼食に山羊そばなどを食堂で食べた。その向かいに、なにやら違和感のある倉庫というか、建物がある。何かのショップ、それも恐らくはミリタリー系だ。

沖縄、というと、なんとなく反戦・反基地みたいな報道が多いけれど、普通に基地の経済で食べている人が沢山居るし、ミリタリーショップが有っても不思議では無い。が、本土でも名高い辺野古にほど近い場所のミリタリーショップって、どんなものだろうか。


まず、倉庫を改造したようなスパルタンな外観が怖い。”ORDNANCE”っていう 店の名前が、日本人にはまず馴染みの無いネイティブ的なワードチョイスで怖い。そして、窓が一切見当たらず、中の様子が覗えなくて怖い。しかし、ピンクのプリウスが駐車場に停まっているから大丈夫、という判断で入店を決意した。

店内には、服を中心にして、予想通りミリタリーアイテムがいっぱい。しかも、その内容は半端なものではない。オリジナルのパーカーはアメリカ海兵隊系のデザインで、黒字に白でゾディアックボートとでかい骸骨が描かれた、これどこで着られるんでしょう(基地で着られる)、という凄いデザイン。ポーチ、という単語から想像されるものとは、最も遠い場所にあると思われる分厚い布製のOD色ポーチ。多分、無線機とかアサルトライフルのマガジンなんかを入れる模様。そんな中で、ミリタリーデザインのエプロンがあったりするのが、ポップで一周回って怖い。


軍事用語は割と知っていると思って居たのだが、店のお姉さんが言っている用語が半分ぐらいしか理解できない。あんまりヘビーな装備は買えないので、この普段使いが(比較的)出来そうなパーカーなんてどうだろう。

「素材の通気性が良いので、私も良くゲームの時に着ています」

なるほど、ゲーム。沖縄でもサバイバルゲーム人口はやっぱり存在するのだ。ひとまず、おとなしめのデザインの偵察隊のパーカーを購入した。黒字に黄色で、まあ控えめに海兵隊記章なんかが描いてある。

「このシリーズは、海兵隊の人にも好評なんですよ」

つまりこれは、海兵隊グッズではなくて、海兵隊で使っているやつなのだな。聞けば、顧客には海兵隊員が多く、そのリクエストを採り入れて商品開発をしているそうだ。

ちなみに、ピンクのプリウスは、単に店のお姉さんの自家用車だった模様。